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こんなのアリ!? 仰天事件簿(4)

レギュレーションで雁字搦め

――一口にトラブルといっても、じつにさまざまですね。

吉成 著作権侵害や契約違反に絡むトラブルならまだ解決の方法もあるのですが、ゲーム業界で仕事をしていると、どうにも納得できない壁にぶつかることが多々あります。とくにプラットフォーム各社が設けている「自主規制」の数々には、何度も悔しい思いをさせられました。 ゲームを発売するためにはそのプラットフォームの企画承認を受けなければならないのですが、わけのわからない「自主規制」を理由に却下されることがあるんです。

――過激な性や暴力の表現や、差別的な表現、また悲惨な事故や事件などが起こった際には、しばらくはそれを連想させるようなキーワードを排除するなど、エンターテインメント業界では独自の規制を設けてユーザーに配慮している組織がほとんどですよね。

吉成 ええ。ところがその基準が、けっこう曖昧なんですよ。 以前、アメリカのゲームをプレイステーションに移植して発売しようとしたのですが、そのゲームが、敵を殺しまくるゲームだったので、残酷すぎるという理由で申請が通りませんでした。ところがそのゲームが、後で大手ゲーム会社から発売されたんです。

――腑に落ちませんね。相手によって手心を加えているということでしょうか?

吉成 申請が却下されたケースで、もっとひどい例もあります。こちらも海外からライセンスを受けたゲームなのですが、却下の理由は「4本指のキャラクターが登場するから」でした。  

えっ、こんな理由で申請却下!?

――身体欠損の障害者を侮蔑的に描いた作品だと判断されたのですか?

吉成 いいえ、まったくそんな要素はありません。「四つ」という言葉が部落民を指す差別語とされていて、4本指のキャラクターはそれだけで差別表現としてと捉えられるから、だそうです。

――たしかにデリケートな問題ではありますが、さすがにこじつけのように感じられます・・・。

吉成 僕は「四つ」という言葉が指す意味も知っているし、部落民の存在も知っていました。昔は結婚する相手が部落民出身かどうかを調べた、なんて時代もあったんです。大阪の橋下知事は部落民出身か、なんてことが週刊誌の記事にもなりました。でも、今の若い人達には関係のない話ですよ。こんな馬鹿げた規制は差別撤廃になんの役目も果たしません。 ソニーからは「キャラクターの指を5本に修正すれば申請を通す」と言われましたが、ゲーム内のキャラクターはプログラムの変更でどうにかなるとしても、ムービーを修正するとなると莫大な費用もかかります。納得できない理由でそういった修正を認めることは、僕には到底できませんでした。

――作品自体に瑕疵があるわけではなく、差別的な意図がないことも明らかであれば、どうにかならないものなのでしょうか。

吉成 残念ながら、どうにもなりませんでした(笑)。 そもそも、日本のゲームには首をかしげたくなるような規制が多すぎるんです。僕は、流血シーンの刺激が強すぎないよう血の色を緑に変えるとか、モンスターを「殺す」のは残酷だから「倒す」という表現に言い換えるといった小手先のごまかしには疑問を感じます。 ゲームというのは、シューティングにしろ恋愛ゲームにしろ、リアルな世界ではできないことが経験できるから楽しいわけでしょう? それなのに、ゲームの世界を現実世界と同じようにしろという基準のほうがおかしいんですよ。もちろん、見たくもないようなグロテスクな作品も世の中にはたくさんありますが、ユーザーへの配慮というのであれば、CEROのレーティングを徹底するとか、方法はあるはずです。

第4回03CERO年齢区分マーク
国内で販売されるコンシューマーゲームには、パッケージにレーティングを示すアイコンが表示されている。

 

吉成社長のつぶやき(16)

キャラクターの指の数のせいでSCEの企画承認が通らなかったことには、いまでも腹を立てているという吉成社長。担当者とのやりとりで忘れられないことがあるという。 『ミッキーマウスの指の数は4本なんだけど、グッズだろうがゲームソフトだろうがそのまま売ってるじゃない? だから「どうしてミッキーの指は4本でもよくて、他のは駄目なのか、理由をちゃんと説明してくれ」って尋ねたの。そしたら相手が何て答えたと思う? 「ミッキーは特別です」だって。ああ、頭にくる!!!』

こんなのアリ!? 仰天事件簿(3)

嗚呼、勘違いで損害賠償!

――これまでのお話を伺っていて、契約を結ぶ際には十分な注意が必要なのだなと痛感しました。

吉成 ちょっとした確認不足や思い込みが致命傷になりかねませんからね。そういったミスで、うち自身が権利侵害をしてしまったこともあります。そのときは、裁判沙汰にまでもつれ込んでしまいました。

――法的に訴えられたということですか?

吉成 その通りです。著作権を侵害したとして訴えられたのは『みんなの将棋』という作品でした。初心者が将棋のルールから学べるソフトなんですが、当時の日本将棋連盟会長だった米長邦雄さんに協力を仰いで作った商品です。これは、米長さん監修のPC版将棋ソフト『米長邦雄の将棋セミナー21』を下敷きに作った商品なんですが、そのパブリッシャーだった会社から損害賠償を求められたんです。

――『みんなの将棋』は2002年発売。『将棋セミナー21』は2000年に棋泉というパブリッシャーから発売されて、絶版となっていますね。

吉成 本来であれば何の問題もないはずでした。ところが当時、米長さんは著作権に関する大きな勘違いをしており、それを我々は見落としてしまった。

――どういうことでしょう?

吉成 米長さんは実力と知名度を兼ね備えたトップクラスの棋士でしたから、将棋に関する関する多くの著作物を出していました。その殆どがゴーストライターによるもので、米長さんは、その原稿を監修する、というやり方だったんです。こうした場合、著作権は米長さんだけでなくゴーストライターにも発生するんです。ところが米長さんは、自分が「著者」として出した作品の著作権はすべて自分にあるものと勘違いしていたのです。当然、『米長邦雄の将棋セミナー21』も米長さんが自由に使っていいものと思い込んでいました。  

災い転じて

――そう聞くと、ずいぶん大胆な勘違いのようにも感じますが、将棋の世界、しかも第一線で勝負に明け暮れている一流の棋士ともなれば、そういった知識に疎いのも無理もないことかもしれませんね。

吉成 そうなんです。いざ訴えられても、彼はずっと納得がいかないと憤慨していたくらいですから(笑)。最終的には一定の和解金を支払うことで決着しましたが、それでもあまり納得がいっていないようでしたね。

――それでも無事に解決できてなによりでしたね。

吉成 裁判中は大変なこともありましたが、ずっと米長さんと2人で裁判所通いをしていたものだから、彼とはすっかり意気投合して、お友達になってしまいました(笑)。それが縁で、のちに将棋連盟から将棋界のIT化についての相談を受けて、オンライン将棋サイトの立ち上げをお手伝いすることになりました。今でも将棋連盟が運営する『将棋倶楽部24』のサポートをしています。

第4回02『みんなの将棋』パッケージ写真
騒動の元になったソフト。

 

吉成社長のつぶやき(15)

米長邦雄氏といえば棋士としての活躍はもちろん、色々なエピソードも数多く残されている。 『米長さんとお付き合いが始まって間もなく、「吉成さんは、友達だから」って台詞をよく会話の中で使うんですよ。あんな有名人にそんなことを言われて悪い気はしないよね。それが僕だけでないことは容易に想像がつくんだけど、彼の人脈の多さの理由だね』

こんなのアリ!? 仰天事件簿(2)

開発費が2倍以上に!?

――開発途中での仕様変更は頻繁に起こるということですが、その影響で納期が遅れたり、完成した作品にバグが発生したりと、連鎖的なトラブルにつながるようなこともあるのでは?

吉成 ありますね。特に費用の面は深刻で、下請けにとっては会社の存続にかかわるような資金難につながるケースもあります。元請け側が指示した仕様変更によって開発費がどんなに膨れ上がったとしても、契約書を盾にして契約時の金額で押し通す会社がこの業界では圧倒的に多いんですよ。

――仕様を変更した側の責任であっても、追加料金を認めないのですか?

吉成 基本的には、契約外の追加料金を認めるケースは稀です。

――契約とはいえ、厳しいですね。下請けサイドが一方的に不利を被るような条件というのは、両社の信頼関係を損なうような気がしますが・・・。

吉成 うちも以前、クライアントからあまりにも一方的なことを言われて大喧嘩をしたことがありますよ。そのときのクライアントは○○ミだったのですが、2500万円ほどで仕事を受けたところ、途中の仕様変更などで納期がどんどん遅れ、費用も5000万円ほどに膨れ上がってしまったんです。

――実際にかかった金額が2倍ともなれば、さすがに交渉の余地はありそうですが・・・。

吉成 もちろん、事情を考慮してもらえるよう交渉に行きました。せめて、追加でかかった費用の半分くらいは負担してほしいとお願いしたんです。ところが、まったく話し合いにもなりませんでした。  

目には目を、契約書には契約書を

吉成 ○○ミは、納期が1日遅れると契約金から1%ダウン、1カ月遅れると30%ダウンというペナルティを契約書に謳っています。契約時に、この条項を外してもらえないか、とお願いしても、「現場では契約内容を変更する権限はないし、この条項に関しては交渉の余地はないです。それに実際にこれが適用されることはないですから」という説明だったんです。 当時、僕が○○ミに交渉に行くと、担当者は追加負担を認めるどころか、「契約書をよく読んでください。今回のプロジェクトは100日以上の遅れが生じたわけですから、本来だったら、うちは追加分どころか契約の残金も一銭も払わなくてもいいんですよ」と言ってきたんです。これには頭にきて、席を立って帰りました。

――自社側の責任を認めないだけでなく、ずいぶんと恩着せがましい態度ですね。

吉成 契約書を盾に脅してくるようなやり方にあまりにも腹が立ったので、あのときはこちらもちょっとした意趣返しをしました。 サクセスが○○ミから受けていた仕事は、もともとは○○商事という会社からの受託だったんです。○○商事は「孫請けには出さない」ということを条件に○○ミと契約していたので、じつは○○ミも契約違反をしていたんですよ。僕は○○商事にも知り合いがいたから、「なんだったら、納期が遅れた原因が我が社だけにあるんじゃないということを、その人を通して、○○商事さんに証明しましょうか?」と伝えたのです。

――ええっ!? 本当にリークしたのですか?

吉成 脅しただけで、未遂です(笑)。その担当者が「それだけは勘弁してください」と泣きついてきたので、こちらも鉾を収めました。○○ミの担当者はまだ若く、会社と下請け会社の間に立って困り切っていたので、勘弁してやりました。

――ゲーム業界が抱える大きな問題ですね。  

吉成社長のつぶやき(14)

吉成社長が激怒したという○○ミの担当者は、その後・・・。 『それが彼、うちとのトラブルのせいで窓際に追いやられたらしい。なんで知ってるかっていうと、うちにいる元○○ミのOBのところに「いま仕事がなくて窓際にされたんです」って相談に来てたから。テレビドラマのようなことが実際にあるみたい』

こんなのアリ!? 仰天事件簿(1)

38年間で1300タイトル以上という膨大な作品を作り上げてきたサクセス。その作品が自社オリジナル開発であろうが受注開発であろうが、またプラットフォームが何であろうが、吉成社長にとっては作品を生み出すという喜びに違いなどないという。しかし物作りには、喜びだけではなく、苦労もまたつきものである。ときには一方的なルールに振り回され、また時に勘違いから大失敗をしでかし――。サクセスが直面したトラブル例をいくつかご紹介したい。

企画書が、たったの2枚!?

――「SIMPLE1500」シリーズのうち、他社に依頼した作品にはサクセスがビジュアルやサウンドの素材をすべて提供したものが多いということでしたが、素材づくりはサクセスの得意分野なのでしょうか?

吉成 こうした素材は外部の会社に発注することもありますが、基本的には社内で作ります。かつて、アスキーからの依頼で『RPGツクール』のコンシューマー版を受託開発していたのですが、これなんかは普通のゲームの何倍もの素材が必要だったので、ずいぶん大変だったことを覚えています。

――『RPGツクール』は今も続いている人気コンテンツですが、ゲームプログラムの知識がなくても誰でも簡単にゲームを作れるというコンセプトがうけて、コンシューマー版が出た頃は大きな話題になりましたよね。

吉成 ずいぶん盛り上がり、当時、当社の窓口だったログインソフトの編集長が社長賞をとっていたはずです。 この「ツクール」シリーズでは、ユーザー自身が自分好みのゲームを作れるよう、豊富なツールを用意する必要がありました。うちは1995年に発売したスーパーファミコン版「RPGツクール」を皮切りに、『音楽ツクール かなでーる』『サウンドノベルツクール』『3Dシューティングツクール』・・・と、シリーズを次々と受託開発したのですが、当時は社内にプログラマーの手が足りなかったので、『RPGツクール』では、空想科学というゲーム開発会社にプログラムをお願いし、社内ではひたすらグラフィックとサウンドを作りましたね。

――『ツクール』シリーズはパソコン版からスタートしているので、ある程度は元となる素材があったのでしょうか?

吉成 移植というよりはゼロから作ったようなものでしたね。いちばん最初にA4用紙2、3枚の企画書を渡されて、「これで見積もりを作ってください」とお願いされたんです(笑)。  

変わりゆく仕様

――肝心の企画書がその枚数では、情報が足りなさそうな気がしますが・・・。

吉成 今では考えられませんが、当時はそれほど稀なケースでもありませんでした。パブリッシャーのほうも経験のある人が少なかったんです。『ツクール』の場合、企画書には具体的な内容は記されておらず、こちらからいろんなアイデアを出して、取捨選択をしてもらうといったやり方で進めました。ゲームは、ゼロから作るものです。会社によって考え方も違えば予算も違う、手順も決め方もすべて違うのですから、ソフトメーカーはそれらに柔軟に対応して作り上げる能力が必要なのです。

――制作側からすると『ツクール』はどんなシリーズだったのでしょうか。

吉成 「泥縄式」というのがこのシリーズの特徴でしたね(笑)。というのも、作っている途中で「あんなことがやりたい」「こんなこともやりたい」とクライアントからの希望が増え、仕様がどんどん変わっていくので、そのつど泥縄式に対応していきましたから。開発の現場では仕様が途中で変わるということ自体はざらにありますが、いま思えばアスキーの体質も大きかったんじゃないかな。当時のアスキーは、昼間に人がいないような会社でしたから。

――とても手間隙のかかったシリーズなのですね。ところで、『ツクール』シリーズのひとつ『かなでーる』は、吉成社長が自ら音楽を勉強して作ったそうですが、これまたずいぶん大変だったのでは?

吉成 『かなでーる』はシリーズの中ではちょっと変わり種なんですよ。もともとサクセスのオリジナル商品として開発していたものを、「『ツクール』シリーズにちょうどマッチしているのでラインナップに加えてほしい」という依頼を受けてシリーズに組み込んだので。 もともと『かなでーる』を企画したのは、誰でも自由に音楽を作れるソフトを作りたかったからなのですが、僕自身には音楽の知識がほとんどありませんでした。だから、本屋さんに行って音楽関連の本を何冊か買って、音楽理論をいろはから勉強しながら作りました。 因みに、この時も社内にラインが足りなかったので、今では格闘技ゲームの『ギルティギア』や『ブレイブルー』で有名なアークシステムワークスさんにプログラムをお願いしました。

――現在は『ツクール』シリーズには携わっていないのですか?

吉成 クライアントとの間でいくつかトラブルがあったんです。『ツクール』シリーズの制作は我が社がいっさいがっさいをコントロールしており、外注先の会社名もすべてオープンにしていました。ところがログインソフトは、それらの会社に直接連絡を取って、別の仕事を発注するようになってしまったんです。 現在進行形で依頼していた仕事先に次々と新しい依頼をぶつけられれば、作業が滞るのは当たり前ですよね。結果、うちで進めていた仕事の幾つかに遅延が生じて、最終的に発売時期を逸してしまう、という最悪の事態にまで発展してしまいました。

――信頼が仇になるという、残念な結果ですね・・・。

吉成 ほかにも、ログインソフトの担当者達が、当時アスキーのメンバーで作った新会社にごっそり抜けて移るなど、いろいろな出来事が重なり、うちは『RPGツクール3』を最後にシリーズから撤退することになったんです。

第4回01『音楽ツクール かなでーる』パッケージ写真
このソフトのために、吉成社長は音楽理論を猛勉強することに。

 

吉成社長のつぶやき(13)

 
『元アスキーの社員が作った新会社はアクセラ。「ツクール」シリーズに関わっていたサクセスの社員は全員新会社に引き抜かれてしまった。外注先も一緒に。確か50億円以上の資本を集めてスタートして、数年で破綻。この時学んだことは、無能な人間でも、時に組織の中で上に登り、一時的な成功をおさめることはある、ということ』