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「日本初」連発!(4)

思わぬ落とし穴!?

――「CINEMA英会話」のタイトルを眺めると、いろんなジャンルが揃っていますね。 吉成 コメディ、ラブロマンス、ホラー、アクション等々、ユーザーの好みに合わせて選んでもらえるようにしました。予算の関係で大作映画には手が出せなかったものの、純粋に映画鑑賞を楽しむこともできるように、ジュリエット・ビノシュ主演の『嵐が丘』や、レオナルド・ディカプリオの初主演映画『ボーイズライフ』など、名優が出演している渋めの話題作もラインナップに加えています。   ――「バーチャルシアター」も「CINEMA英会話」も、2000年を最後に新作を出されていないようですが、ひととおり作り終えたということでしょうか? 吉成 それが、じつは企画の根幹に関わる大きな見落としをしていたんですよ(笑)。「CINEMA英会話」の映画タイトルはすべて配給会社のギャガから権利を買って使っているのですが、この権利には契約期間があるんです。これはなにも特殊な事例というわけではなく、映画の権利にはすべて契約期間があるんです。たとえば日本の映画配給会社が海外の会社から権利を買って日本でディストリビューションする際も、すべてこの契約期間内に限られます。 僕は、作ったものは何時までも売れる、と思い込んでいたから、まったく気付かなかったんですよね。いやあ、うかつだった!(笑)   ――ということは、映画を題材とした「CINEMA英会話」も・・・!? 吉成 はい。残念ながら、一定期間を過ぎると再生産はできなくなりました。だから2000年までしか売れなかったというわけです。 だけど本当によくできたソフトでしたから、ずいぶん経ってから、よその会社がうちとそっくりのパソコンソフトを出してましたね。  

映画に代わる教材は?

――そんな顛末があったのですね。ほかにはどんな教育ソフトを開発されたのでしょうか。 吉成 使用期限がある映画はやめて、アニメを教材にしたソフトを作りました。日本アニメーションから『十五少年漂流記』や『トンデモネズミ大活躍』といったアニメの権利を買い、2002年に「アニメ英会話」というシリーズ名で3作出しました。   ――海外の映画から日本のアニメへ、ずいぶん大きな路線変更ですね。 吉成 映画で使っている英語って、ちょっと難しいんですよ。それで、もう少し難易度が下げられないかと常々考えてはいたんです。作った後で、映画が初心者には適さないと分かったとき「アニメならもっとやさしい英語にできるにちがいない」と考えての選択でした。ただこれには後日談があって、作ってみたらアニメの英語もけっこう難しかった(笑)。 それ以外にも教育ソフトはたくさん作ってきましたが、『キクタン』という英語学習ソフトもDSとPSPで発売しました。
キクタン-001
アルクのキクタンのPSP版とDS版。単語を覚えるには最適のツール。
 

吉成社長のつぶやき(12)

いまでも英語はペラペラなのかと訊ねてみると・・・。 『うーん・・・ペラペラまではいかないな。「ペ」くらいかな! でも、イギリス人社員からほぼ毎日レッスンは受けてます』  

「日本初」連発!(3)

ゲーム機でできることは、ゲームだけじゃない

――コンシューマーゲーム初のパッケージ商品である『ゲームの達人』から、これまたコンシューマーゲーム初となる廉価版シリーズ「SIMPLE1500」が生まれたというのは、印象的ですね。 吉成 どんな作品も、作った経験は次につながると思います。そういった意味では、同じ頃に発売した「CINEMA英会話」というシリーズもとても印象に残っています。   ――英会話のゲームですか? 吉成 ゲームではなく、洋画を観ながら劇中の英会話が学べる教育ソフトなんです。もともとはパソコン用ソフトで、「バーチャルシアター」というシリーズ名で販売していたのですが、シリーズ名が内容にそぐわないという意見があり、コンシューマー版では「CINEMA英会話」という名前に改めました。96年にMacintosh版、97年にWindows版、99年にプレイステーション版、そして発売に至りませんでしたがセガサターン版と、4つのプラットフォームで展開し、プレイステーションでは初の教育ソフトとなりました。   ――汎用性の高いパソコンとは違って「ゲーム専用機」と思われがちなコンシューマー機に、別の利用法を付加したのですね。 吉成 「ゲーム機用の教育ソフトなんて使いづらいんじゃないか?」と疑われそうですが、そんじょそこらの英語教材より、よほど高性能なものに仕上がりました。  

英語教材の最高傑作!?

――それは気になりますね。「CINEMA英会話」には、どんな機能があったのでしょうか。 吉成 このソフトでは日本語と英語の字幕を簡単に切り替えることができ、もし字幕にわからない単語があれば、内蔵された辞書機能によって、ボタンひと押しで画面に表示させることができました。また、セリフ単位での早送りや巻き戻しができたため、重要な箇所だけ何度も繰り返したり不要な箇所を飛ばしたりといった操作も簡単にできます。当時の英会話教材は早送りや巻き戻しの機能が充実しておらず、効率の悪さにイライラさせられることも多かったんです。   ――余計なストレスなく操作できるのはありがたいですね! ところで、数ある教育ソフトの中で英会話を選んだのには何か理由があったのでしょうか。 吉成 じつは、僕は英語教材の営業をしていたことがあるんです。大学に入ってすぐ、家庭の事情でお金を稼がなくてはならなくなって、『ウエブスター』という英々辞書を訪問販売するアルバイトをしていたんです。売るからには自分自身も英語ができなくてはと、当時は猛勉強したものです。 そういった経緯もあって、英語教材についてはある程度の知識やアイディアがありましたし、ゲーム機で英語の勉強をするのもありかなと思ったんです。   ――その吉成社長がこだわって作り上げたソフトとなると、かなりレベルが高そうですね。 吉成 今日の英会話教材の中でも最高の出来だと自負しています。ただ、売り上げには直結しなかったのですけれどね(笑)
第3回03『バーチャルシアター』パッケージ写真
映画を教材とした初のPC用英会話ソフト。
 

吉成社長のつぶやき(11)

英語教材の営業経験は、吉成社長のビジネス観に大きな影響を与えたという。 『あの仕事は歩合制で、売れたぶんだけ給料がもらえるフルコミッションだったんです。セールストークが一言一句まで完全にマニュアル化されてるから、僕らセールスマンは、それを丸暗記して一般家庭に売り歩くわけ。ものすごく売れたんだけど、セールス方法があまりにも強烈だったから、のちに「ブリタニカ商法」と言われて社会問題になったんですね。僕自身、教材としては適していないと感じていたから、この仕事は4年くらいでやめました。入った大学は事情があってすぐに退学してたから、大学に通うべき4年間、ずっと英語教材を売り歩いて過ごしてたってことになりますね。いろんな意味で、勉強になった』

「日本初」連発!(2)

ゲームの「廉価版」という発明

――「SIMPLE1500」シリーズの、1500円という価格はどのように設定されたのでしょうか? 吉成 当時、プレイステーションのソフトは5800円というのが一般的でした。 その頃、我々が開発を受託する場合、1タイトル当たり2000万円前後というのが多かったんです。だとすると、500万円で作れば1500円の値段でも比率的には同じですよね。これが一つの理由です。 今一つの理由は、ハドソンが当時のクライアントだったんですが、その当社の担当者がSCEの人に話をしたところ、1500円ならインパクトがある、とアドバイスしてくれたんです。更に、当時のパートナーだったカルチュア・パブリッシャーズ(現在のD3パブリッシャーズ)からも1500円という提案があったんです。こうして「SIMPLE1500」は、業界初の廉価版コンシューマーゲームとなりました。   ――この値段は衝撃的だったでしょうね! でも、こんなにも安くして大丈夫だったのかと気になります。 吉成 『ゲームの達人』のように、すでに作ったゲームをバラすだけであれば、この価格設定でも問題ありませんでしたから。   ――しかし「SIMPLE1500」シリーズのラインナップには、『達人』に含まれていないゲームもずいぶん多いようですが? 吉成 先程説明したように2000万円で開発を請け負ったソフトが5800円で売られていました。逆算すれば、1作あたり500万円で開発できれば1500円というソフトの価格が実現できるわけですから、500万円以内で開発するために、いろいろな方法を考えました。  

良質なゲームを低価格で

――具体的には、どのような方法で開発したのでしょうか? 吉成 サクセスに「SIMPLE1500」に適したコンテンツが足りなくなっても、うち以外のどこかには必ずあります。僕は当時、作りたいゲームを思いつくと、まずゲームショップに行きました。そして店に並ぶソフトを全部見て、「これが良さそうだ」と思うものが見つかれば、そのゲームのメーカーに連絡を取って「うちがグラフィックやサウンドなどの素材をすべて提供するので、御社のエンジンを使って移植していただけませんか?」とかけあったのです。 この「エンジン」というのは、ゲームの基本となるプログラムで、自動車メーカーが同じプラットフォームを使って異なる車種と作るのと同じです。この方法で、エンジンを持っている会社を探してては交渉し、「SIMPLE1500」のラインナップに加えていきました。   ――すでに持っている資材を再利用できるのですから、交渉先にとっても悪い条件ではありませんね。 吉成 ええ。こうした企画手法を使うことで開発費を抑えることに成功し、その結果、たくさんの良質なタイトルを1500円で販売することができました。 「SIMPLE1500」で編み出したこの企画手法は、後の「スタンダード1500」「SuperLite」などの廉価版シリーズにも受け継がれました。
majang_1500
廉価版ゲームの草分けとなった「SIMPLE1500」シリーズ。
 

吉成社長のつぶやき(10)

コンピューターゲームの歴史を眺め渡すと、栄枯盛衰の目まぐるしさにも驚かされる。先を読むのは大変そうだが・・・。 『コンピューターゲームの時代の前には機械のゲーム、その前には紙で作ったペーパーゲームが流行った時代があったんですね。江戸時代には射的や輪投げで景品が貰えるゲームがあったし、将棋や囲碁はもっと古い時代に作られたゲームですよ。人類が誕生した時から、人は色々な遊びを生み出してきたし、これからも人の歴史が続く限り色々なゲームが生まれ続きますよ』

「日本初」連発!(1)

第4世代、第5世代のゲーム機が次々と発売され、数多のゲームが生まれた90年代後半。サクセスもまた多くのコンシューマーゲームを開発するなか、従来の常識を越え、「ゲーム」という枠組みさえも取っ払ったさまざまなアイディアを実現してゆく。チャレンジはいつも、次なる成果を生み出していった。

複数のゲームを「パッケージする」という発想

――この時期は、多くの機種に移植された『上海 万里の長城』のような委託開発も請け負いつつ、オリジナルゲームの開発にも相変わらず力を注いでいるのですね。 吉成 サクセスは1作目からずっとオリジナルを中心に据えていますからね。結果的には売れないタイトルも多いけど、毎回「これはいける!」と確信して作っています。いや思い込みかな(笑)。   ――コンシューマーゲームの中で、印象に残っているタイトルはありますか? 吉成 商品企画のやり方としては、95年に発売した『ゲームの達人』という商品が印象に残っています。これは将棋、連珠、麻雀、ブレイスという4つのゲームを1つのパッケージに詰め込んだもので、3DO REAL、プレイステーション、セガサターン、スーパーファミコンの4機種で出しました。 コンシューマーゲームでこういったパッケージ商品を出したのは、サクセスがいちばん最初になります。   ――当時としては、画期的な商品だったのですね。売上はいかがでしたか? 吉成 1本のゲームソフトの値段で複数のゲームが楽しめるとあって、そこそこ売れました。発売元のサン電子のほうで「4本分も楽しめるのだから」と強気の価格で発売したんんですが、本当はもっと価格を安くしたかったなあ。  

「どっちがお得?」意外な盲点

――翌年には『7人の達人』というパソコンゲームを発売していますね。 吉成 『7人の達人』は『ゲームの達人』と同時期に開発した作品で、こちらには7種類のゲームを詰め込みました。7800円という高めの価格ながら、こちらもけっこう売れましたね。   ――しかし、その後『達人』シリーズは出されていないようですが? 吉成 ええ。じつは『ゲームの達人』『7人の達人』の「お得感」に疑問を呈する社員がいたんです。 あるとき、その社員とビールを飲んでいたときに、彼がふと「まとまったものを『そこそこ安い値段』で買えるよりも、ほしいものだけを『すごく安い値段』で買えるほうがうれしい」と言ったんですよ。それを聞いて「たしかにその通りだな」と納得しました。たくさん詰め込まれたゲームの中には、当然、いらないものだって入ってるはずですしね。そのときの会話から「SIMPLE1500」シリーズが生まれ、家庭用ゲーム業界に新しいカテゴリーを生みました。   ――「SIMPLE1500」とはどういったシリーズだったのでしょうか? 吉成 シリーズのスタート時は単純に、『達人』に収録されていたゲームをバラバラにして単品売りにしたというだけのものでした。価格はすべて1500円に統一し、タイトルも『SIMPLE1500 THE 麻雀』、『SIMPLE1500 THE 将棋』といったわかりやすいものにしています。 98年にプレイステーション用「SIMPLE1500」を8タイトル、翌年にはWindows用「THE」シリーズを12タイトルと、順次展開していきました。
第3回01『ゲームの達人』『7人の達人』パッケージ写真
『ゲームの達人』は、当時「1本で4本分のゲームが楽しめる」と話題になった。

吉成社長のつぶやき(9)

「SIMPLE1500」の企画が酒の席で生まれたとは! 『酒の席で出たアイデアは多いね。酒を飲みながらアイデアのキャッチボールをしていると、必ず面白いアイデアが出る。1ドリンクで1アイデア。僕の経験則(笑)』