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プロってどんな人?(2)

「がんばります!」は必要ない

――新卒採用と中途採用の社員の割合はどれくらいですか? 吉成 うちでは新卒が3分の1、中途が3分の2といったところです。中途採用の社員は、前職もゲーム会社であることがほとんどです。日本では毎年ゲーム会社の1割が廃業していますから、技術を持った人はゲーム業界内をぐるぐる巡っていることになりますね。   ――すでにゲーム業界で経験を積んでいる中途採用と比べ、新卒の社員を一から育てるには時間や手間がかかりそうですね。 吉成 社会経験ゼロの新卒社員にいきなり大きな仕事を任せることはできませんが、うちには多くのラインがありますから、ゲーム専門学校で学んできた新卒社員はすぐにプロジェクトに参加させ、経験を積ませることができます。ですから新人の育成が特に大きな負担になるということはありませんね。強いて言えば「こんな作品を作りたい」とか「こういうプロジェクトに携わりたい」という目標を明確に持っている新卒社員はほとんどいないので、そこは中途採用に劣る部分だと言えます。   ――「ゲームを作りたい」という意欲はあれど、具体的にはまだうまくイメージできていないと? 吉成 はい。でも、それはそれでいいんですよ。たとえば大学に入る時に「どの学部でどんなことが学ぶことができ、将来どんなふうに役に立つのか」を理解したうえで専攻を選ぶ高校生なんてほとんどいないじゃないですか。下手をすれば大学の先生すらそんなことわかってません。偏差値で選んだ無難な大学に入るというパターンが多いはずです。大学入試の時点で明確な人生プランを立てている高校生がいないのと同じように、会社だって新卒で入社した時点でそこまで求めたりはしません。ただ「良いゲームを作りたい」という意識だけはしっかり持っていてほしいですね。   ――常にその意識を持っていれば、自ずと成長して具体的な目標も生まれますね。 吉成 ゲーム会社の使命は良いゲームを生み出すことで、そのためには社員一人一人が良い作り手に成長する必要があります。いわゆる「クソゲー」が生まれる原因は、作り手がクソだからにほかなりません。だから「できるだけ早く一人前のクリエイターになりたい」という意欲を持つ社員をゲーム会社は求めています。いつまでたっても企画書の1本も出さずに言われたことだけを無難にこなしているような社員は必要ありません。   ――ゲームの作り手の中には「どんな仕事を指示されても全力で頑張る」というタイプもいるのではないですか? 吉成 「頑張る」ということを日本人の美徳のように考える人も多いと思うのですが、僕は、頑張ること自体に価値を感じません。社員たちにはいつも話しているのですが、無能な人間にやみくもに頑張ってもらうことほど会社にとって迷惑なものはないんですよ。職種に限らず、社員として大事なことは「どれだけ頑張るか」ではなく、事に当たって必要な情報を集め、段取りを考えて仕事に取りかかることです。  

大口を叩くくらいのほうがいい

――ゲーム会社に入ったからには、自分の企画したゲームを手掛けたいという望みを誰もが持っていると思います。ことゲーム企画の提案に関しては、熾烈なアピール合戦になりそうですが。 吉成 社員たちが「こんなゲームを作りたい」「これは自分に任せろ」と言ってくれることが、社長にとってはいちばん楽ですね。もちろん商品開発には時間もお金も必要ですからある程度の勝算がないとGOサインを出せませんが、提案者のやる気に押されて承認してしまうこともあります。   ――熱意や勢いって重要なんですね。 吉成 ゲームっていうのは複数の人間がチームを組んで作るでしょう? だから時には空中分解しそうになることもあるのですが、誰かひとりでも狂ったような人がいればなんとかなるものなんですよ(笑)。「四の五の言わずに俺に任せろ!」というくらいがいいんです。人の顔色を見ながら調整を重ねるような人間ばかりが集まっても、ろくなゲームはできませんからね。   ――一歩間違うと、とんでもない作品ができてしまいそう……(笑) 吉成 これほど変化のスピードが速い時代に「これを作っておけば手堅い」なんてゲームは存在しません。ヒットを確信して出したゲームだって半分以上は外れるのですから。ゲームビジネスというのはある意味ギャンブルなんです。どのみち博打なら、気概のある人に任せるほうが博打しがいがあるでしょう? そういったタイプの社員がもっと増えてほしいですね。  
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1つの棚に約250タイトルが収納されている。この中でヒットした作品は1割。
 

吉成社長のつぶやき(33)

サクセスが開発するタイトル数は、年間約30本。企画を通すのは並大抵のことではなさそうだ。 『僕が出す企画も多いから、社員の企画で採用されるケースは実際にはもっと少数。社員は270人いるけど、企画を出すペースなら1対270でも負けないよ(笑)』

プロってどんな人?(1)

業種を問わず多くの企業人と接し、社内でも人材の育成に力を注いできた吉成社長だが、時には、彼らのプロとしての姿勢に物足りなさを感じることもあるという。ゲーム業界のみならず社会人として求められる資質、そして取り組むべき課題について語ってもらった。  

ゲームスクールで何を学ぶ?

――サクセスの創業から40年、これまでいろんなタイプの社員がいらっしゃったと思いますが、昔と今で変化を感じることはありますか。 吉成 少子化という流れの中で、日本人全体の知的レベルが下がっているように感じます。ゲーム業界に限っていうと、コンピューターゲームの黎明期には非常に高い専門知識がなければクリエイターにはなれませんでしたから、当時と今を比べると、ゲームクリエイターの基礎的な学力の差は歴然です。   ――つまり、クリエイターの質が下がってきていると? 吉成 いいえ、一概にはそうは言えません。昔と違って今は優れたツールがたくさん開発されていますから、ゲームクリエイターを目指す上では学力の差などほとんど問題になりませんから。さらに日本にはゲームの専門学校も多く、卒業後すぐに戦力になる優秀な人材が毎年コンスタントに輩出されています。ゲームの専門学校がこんなに多いのは世界広しといえども日本くらいですよ。   ――授業料を払って専門学校に入るくらいゲーム作りに対する意欲が高いのですから、会社でもバリバリ働いて貢献してくれそうですね。 吉成 ところがそう簡単にもいかなくて、与えられた仕事は黙々とこなすけれども仕事を仕切ったり人を引っ張っていくのは苦手という人が増えているんですよ。ゲーム業界ではもともとこういったタイプの人間が多く、部長や課長を任せられる人材が少ないことが悩みの種なんです。うちにも「仕事が増えて大変だから管理職にはなりたくない」という社員がいるので、ちょっと危機感を覚えますね。  

「やりたくない」からやめちゃうの?

――技術者としての能力とゲーム会社の社員としての適性はまた別ということですか。逆に考えると、ゲーム業界で働くことを考えている人は、専門スキルを磨くだけでなく同じ組織のメンバーに意識を向けることを心がけると、就職の大きなアドバンテージに繋がるかもしれませんね。 吉成 統率力は一朝一夕に身につくものではありませんが、もうすこし積極性を持つ人が増えるといいなと思います。 以前、あるゲーム専門学校の先生から聞いた話なのですが、その学校のテニスクラブで部長を決める際に、なかなか引き受け手がいなかったそうなんです。らちがあかないので、担当の教師が見込みのある生徒を指名したところ、その生徒は素直に首を縦に振らず、最終的には「クラブを辞めさせていただきます」となったとか。   ――そこまで嫌がるというのはすごいですね。 吉成 冗談みたいな話ですよね(笑)。人を統率するという経験で得られるメリットよりも、生ずる責任や煩わしさといったデメリットのほうが大きいと判断したのでしょう。たとえ苦手であっても必要とあらばリーダーシップをとれる人を企業は求めているのですが・・・。   ――せっかく経験を積めるチャンスなのに、もったいない気がします。 吉成 日本の社会全体にそういう消極的なタイプが増えてるのかもしれません。たとえば大手総合商社であっても、海外赴任を嫌がる社員が多いそうです。僕ら団塊の世代は、海外で仕事することに憧れた世代なので、そういった風潮に驚きを覚えますが、今の若い人たちには海外に対する憧れは無くなっていますね。   ――採用する側からすると、頭の痛い問題ですね。サクセスの入社試験では社長が面接を行って最終判断をされているそうですが、特に重視するポイントはありますか? 吉成 うーん。採用を決めるのはほとんど直感かな。   ――直感ですか? けっこうアバウトですね!? 吉成 僕は日本のゲーム業界の中でいちばん多く面接をしてきた男ですから(笑)。志望者には新卒でも中途採用でも独自の技能テストを行っているので、一定の条件をクリアした人材が入ってきます。その上で僕が判断を下すのは、テストの数値や履歴書以外の部分になります。短い面接時間で「使える人材か、否か」という点を見極めるには、経験からの直感がものを言いますね。  
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過去サクセスに応募し面接した人数は数千人。
 

吉成社長のつぶやき(32)

就職活動がうまくいかない人に、何かアドバイスは? 『ある元社員から「書類選考で落とされて、なかなか面接にこぎつけない」という相談を受けて履歴書を見せてもらったことがあるんだけど、受からない理由は簡単、本人のアピールポイントが的外れで無駄な内容が多かった。ひょいひょいっと添削して渡してやったら、すぐに就職が決まったよ。まずやるべきことは企業がどんな人材を欲しているかを把握すること。それがわかれば、自分が何をアピールすればいいかは自ずとわかるでしょう』

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