ビジネスマンとしての吉成社長を形作ったのは、多くの「出会い」だったという。 その中でも特に大きな影響を受けたというのが、これから紹介する4人のビジネスマンだ。 天才的な頭脳、商機に対する嗅覚、他人を鼓舞する力・・・。 彼らの突出した才能を目の当たりにした吉成社長は、その力を少しずつ自分の中に吸収して会社経営に活かしてきた。
いちばん最初の上司は、とんでもない人だった!
――吉成社長が一人のビジネスマンとして、そして経営者として影響を受けた方についてお話を聞かせてください。
吉成 「この人がいなかったら今の自分はいないな」と思う人が、4人います。性格も経歴もさまざまですが、彼らからは本当に大きな影響を受けました。その一人が、大学入試後にアルバイトとして入った会社で出会った篠澤達男さんです。僕は、英語教材を取り扱うブリタニカの一部門であるウェブスターという事業部で完全歩合制のセールスマンとして働き始めました。そのときの上司が篠澤さんです。彼は、その後ブリタニカの営業部門でトップにまで登りつめた人で、非常に優秀なセールスマン、そしてセールスマネージャーでした。
――ブリタニカでの営業のお仕事は、たしか4年間ほど続けられたのでしたよね。
吉成 そうです。僕は一浪して大学に入ったのですが、家庭の事情もあって入学前からアルバイトを始めました。それがブリタニカというアメリカの会社で、そこにはすべての新人セールスマンに短期間で研修を施すプログラムがあって、新人セールスマンは全員が「スタンダードトーク」という営業トークを叩き込まれます。 外資系の営業には大抵こうしたマニュアルが存在していて、「ごめんください」から始まって、商品の紹介の仕方から購入を渋られたときの切り返しまで、訪問先でのあらゆる状況を想定した対応方法が網羅されていました。丸暗記さえしておけばどんなド新人だろうがそこそこに結果が出せるというとても優れたものでしたから、初めての営業でも何とかなりました。
――1セット数十万円もするような高額商品を十代の若者が売りまくったというのですから、マニュアルというのは非常に効果的なのですね。
吉成 マニュアルの出来・不出来は売り上げを左右する重要なファクターだとは思います。ただ、同じマニュアルを使っていても、ほとんど商品が売れずにすぐに辞めてしまうセールスマンは大勢いましたから、万能というわけでもないんです。僕はブリタニカにいた時代、トップセールスマンであった篠澤さんの姿を見て、また自分自身の体験をもって気づいたことがいくつかあります。そのひとつが「セールスとは確率である」ということです。
たくさんの人に会えば、それだけたくさんの商品が売れる
――その「確率」というのは?
吉成 簡単に言うと「たくさんの人に会えば、売れる数もそれに比例する」ということです。もちろんセールスマンにはある程度の販売テクニックが必要ではありますが、じつのところ「1件の成約までに何人のお客さんと会ったか」という数字は、腕のいいセールスマンもそうでないセールスマンの間にそこまで大きな差はないんですよ。
――えっ、そうなんですか!?
吉成 意外に思いますよね(笑)。売れるセールスマンとそうでないセールスマンの違いがどこで生まれるかというと至極簡単で、単純に会っているお客さんの総数が違うんです。たくさんの商品を売るセールスマンは、それだけたくさんのお客さんに会っているということなんですよ。これはどんな業界にも概ね同じことが言えます。たとえばトヨタ、日産、ホンダなどの自動車のシェアは、そのまま各自動車メーカーの営業所の数や抱えているセールスマンの数に言い換えることができます。事務機器や生命保険の営業でも同様で、如何にセールスマンを多くもつか、如何にに多くの見込み客に会うかが、業績を左右するいちばんのキーになるわけです。
――なるほど、単純明快ですね。商品を売るには会って会って会いまくるしかない、と。
吉成 そうです。ただし、会った上で話ができなければ意味がありません。訪問したときに門前払いをされずに商談にこぎつけられるかどうかはセールスマン次第。結果を出せないセールスマンは、せっかく会えても話を聞いてもらえずに終わっちゃうんです。
――話を聞いてもらえるかどうかは、さすがに確率というわけにはいかないのですね。
吉成 だからこそセールスマンはお客さんにアプローチする方法を考えるんです。たとえば「ごめんください」と直接訪問する方法もあれば、まず手紙を書いてから電話をかけるという人もいるし、直に電話をかけたり、誰かの紹介をもらったりと、やり方はさまざまです。 どんな方法でアプローチをしようかと知恵を絞るのが、セールスマンのいちばんの仕事なんです。僕は身近に篠澤さんというトップセールスマンがいたので、非常に参考になりましたね。
サクセスが「多作」にこだわるワケ
――吉成社長はブリタニカを辞められたあとも幾つかの会社で営業マンとしての実績を積まれていますが、これは「売れる商品の数はお客さんと会えた回数に比例する」という法則に気づいたことで営業の醍醐味にハマったのでしょうか?
吉成 セールスの確率に気づいたことはセールスの仕事を続ける上で役には立ちましたが、会社の経営に関わるようになってからも支えになっています。サクセスは創業時からずっと多作にこだわっていますが、これは「たくさん作れば、そのぶん当たるゲームも多くなるはず」と考えたからです。
――そういう理由があったのですね。
吉成 ブリタニカ時代、僕は確率のほかにももう一つ、仕事の成果を上げるうえで無視できない要素に気づきました。それはモチベーションです。
――いわゆる「根性論」ということでしょうか?
吉成 ちょっと違います。 僕がアルバイト入社するよりずっと前のことになりますが、ブリタニカのセースルマンが殺人を犯してニュースになったことがあるんです。当然ブリタニカの商品がまったく売れなくなってしまったのですが、そんなときにもかかわらず、相変わらず高い売り上げをキープしていたセールスマンがいました。それが篠澤さんです。
――吉成社長の上司だった方ですね。
吉成 彼はセールスマネージャーとして数百人の部下を率いる立場にいましたが、僕は4年くらい在籍していたため、直接声をかけられたり教えを受ける機会も多かったんです。 ある時、ブリタニカのあまりにも強引な営業手法が日本消費者連盟から訴えられ、かつての殺人事件のときと同じように全国でブリタニカの商品が売れなくなりました。この時僕は、彼の凄さを実際に目の当たりにすることになったのです。
――1970年の、いわゆる「ブリタニカ商法」と呼ばれて社会問題となっていたときのことですね。
吉成 そうです。連日のように新聞やテレビで報道されて悪評が広まっていましたから、新規の契約は取れず、成約後のキャンセルが相次いでいました。このときにも篠澤さんが率いていた事務所だけが、日本で唯一、相変わらず売り上げをキープしていたんですよ。
モチベーションが結果を左右する
――詐欺商法として訴えられているさなかに従来通りの売り上げを達成し続けるとは、にわかには信じがたいのですが・・・。
吉成 そりゃそうですよね(笑)。なにか特別なカラクリがあるのではと思われそうですが、そういったことは何もありません。僕のいた事務所ではセールスマンのモチベーションが高かっただけなんです。 「いくら熱心に営業したところで、お客さんからはどうせネガティブな反応しか返ってこないだろう」と思って営業すれば、お客さんからはその通りの反応が返ってくるものです。ところが不思議なことに「世間でどんな悪評が立っていようが関係ない」というポジティブな意識で営業すると、ちゃんとポジティブな手応えが返ってくるんですよ。そして、部下のモチベーションを上げてポジティブな意識を持たせることにかけて、篠澤さんの能力はずば抜けていました。
――なるほど。たしかに根性論とは少し違いますね。
吉成 篠澤さんは商品にまったく興味のない相手だろうが、経済的に余裕のない相手だろうが、「喜んで買いたい」という気にさせてしまう凄腕のセールスマンでした。人を元気付ける話術、いわゆるペップトークの達人だったんです。どんなに意気消沈していた部下でも、彼の話を30分、1時間と聞いているうちにみるみるやる気が漲って、張り切って次の営業に飛び出していくほどでした。
――人を乗せる天才ですね。
吉成 他人をモチベートするのがセールスマネージャーの仕事であり、セールスマンの仕事なのですから、その意味では超一流でした。社会人としてのスタート時に篠澤さんと出会ったことで、仕事の成果はその仕事に関わる人間のモチベーション次第で大きく変わるものなのだということを強く実感しました。
――全国でまったく売れない状況の中で唯一結果を出したということが、それを端的に証明していますね。
吉成 あのときの経験から、自分や他人の気持ちをポジティブに保つことの重要さを肌感覚で学びましたね。
吉成社長のつぶやき(39)
本当に訪問した数がそのまま営業の成果につながるのですか? 『レストランを開業しようとすると、人通りの多い場所を探すでしょ。山奥や田舎の畑の真ん中にお店を開いてもお客は来ないから。新宿や渋谷の駅前に店を出すことができれば、料理の味が多少悪くても、接客マナーが今ひとつでも売上は上がるよね。営業は足の使い方ひとつで、田舎でお店を出しているようにもなるし、人通りの多い場所にお店を出しているようにもなるから』