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プロってどんな人?(5)

紙媒体を薦める意外なワケとは!?

――現在ゲーム業界を目指している人たちは専門学校などで日々最新の知識を学んでいると思いますが、ほかに勧めたい勉強法はありますか?

吉成 単純なようですが、人に会って話を聞くこと。そして本や新聞を読むことです。

――たしか、サクセスには書籍購入補助という制度もあるのですよね。

吉成 はい。以前にもお話ししましたが、我が社の行動指針の一つに「本を読み、常に学ぶこと」という項目があり、社員には新聞や書籍の購読を推奨しています。ただ、新聞離れは若い世代ほど進んでいて、この新聞を読まない社員が半分くらいいますね。

――社員の皆さんは仕事柄デジタルに馴染んでいるのでしょうし、情報収集にもデジタル媒体のほうを選んで使いこなしているのでは?

吉成 たしかにデジタル媒体には多くのメリットがありますが、それでも本や新聞といった紙媒体から情報を仕入れることは必須です。

――吉成社長が紙媒体にこだわる理由とは何でしょう?

吉成 今はどの新聞も電子版を発行していますし、話題の本であればたいてい電子書籍化もされているので、デジタル媒体でも紙媒体と同等の情報が得られると思いがちです。ところが、その情報を理解して頭に刷り込むという面では、紙媒体のほうが圧倒的に効果的なんですよ。 その理由のひとつには、一読できる面積の違いがあります。単純に考えて、スマホの画面でスクールせずに読める情報量と新聞を広げた状態で読める情報量では、圧倒的に後者が多いでしょう? 紙媒体の新聞なら、目に飛び込んできたたくさんの情報の中から必要なものをピックアップするのも、重要度別に整理するのも簡単です。  

新聞をどう活かすか

――アナログ媒体かデジタル媒体かにかかわらず、新聞を読む習慣自体がないという人は30代40代にも増えています。テーマがはっきりしている書籍と違い、新聞はどう読んだらいいのかわからないという人も多いようですね。

吉成 専門書で深く勉強するのはもちろん必要です。でもそれだけでは視野が狭くなり、世の中の流れにはついていけません。僕たちのような仕事をしている人間はそれじゃダメなんです。 毎年、新しい技術についていけずに多くのゲーム会社が廃業していってますが、いつの時代でも「新しく主流になった技術」というのはその何年も前からスタートを切っているものです。新聞を読んでいればそれらの情報はたいがい出ているのですから、技術の萌芽を見逃すということはまずありません。社会構造の変容についても同様のことが言えます。

――時代を先読みするためには、新聞を読むことがもっとも適しているということですね。

吉成 その通りです。たとえば今話題になっているAI、機械学習、ディープラーニング、IoT、ブロックチェーンといった技術だって、昨日今日でパッと出てきたわけではなく、既存の技術が5年も10年もかけてどんどん発展してきたものです。となれば、今ある技術のうちのどれが将来メジャーになっていくのかも容易に想像がつくし、予想ができていればその対応も可能になります。

――新聞の読み解き方をマスターすれば、あらゆる仕事に通用する大きな武器になりますね。

吉成 ええ、間違いありません。  

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どのキュレーションサイトよりも優れたキュレーションサービスは新聞。

 

吉成社長のつぶやき(36)

10年後の世の中がどうなっているのかなんて、新聞を読んでいてもあまり想像がつきません・・・。 『誰でも9割くらい当たる予想があるんですよ。同業の新しい会社ができたときに、「あの会社、生き残れると思います?」なんて質問をされることがあるんだけれど、何時も「上手くいかないでしょう」って答えればいいんです。そこが暫くして倒産すると「当たりましたね!」って驚かれるんだけど、1年で業界から消える会社は統計的に1割だから、10年続く会社の確率も1割、予想が当たって当たり前(笑)』

プロってどんな人?(6)

東京ゲームショウで何をすべきか

――東京ゲームショウなどの展示会に行くと、新技術を使ったゲームをいち早く試遊したりデモンストレーションを見たりと楽しい体験ができますが、その技術がいつごろスタートしたものなのかは深く考えたことがありませんでした。

吉成 一般ユーザーのお客さんにお祭り感覚で楽しんでいただける場ですからね。ただ、出展側にとっては、東京ゲームショウとは本来、自社商品やサービスのプロモーションの場として、あるいはゲーム販売、BtoB、BtoCへの場として活用するべきイベントです。ところがうちの社員を含め、そこをはきちがえているゲーム業界人は昔から多いような気がします。

――サクセスは前回の「東京ゲームショウ2016」でどんなブースを出されたのですか?

吉成 ゲーム商品の展示と物販です。じつはこういう場での物販って、会社の業績にはたいしたプラスにならないのですが、ゲーム制作の現場の人間はなぜかグッズ作りや物販をやりたがるんですよね。お店やさんごっこみたいで楽しそうだからかな(笑)。

――ファンサービスの面を重視したのでしょうね。

吉成 じつのところ売り上げとしては微々たるものですし、これがサービスになっているのかどうかも正直疑問です。現場の人間がやりたいということで許可しましたが、せっかくのゲームの展示会で「物販」という、ある意味楽な選択をする思考にはちょっと引っ掛かりを覚えますね。

――経営者視点で見ると物足りないということでしょうか。

吉成 はい。知恵を絞ればもっと有効にビジネスに結びつけられるやり方が見つけられるはずなのに、そういった創意工夫を怠るようではビジネスマンとしては失格です。せっかくゲームショウに出かけても、ともすれば一般客みたいな感覚でいろんなゲームを試遊して「ああ楽しかった!」と帰ってくるだけの社員がけっこういるんですよ。ゲームの作り手として、意識が低すぎますよね。

――自社の商材を展示する側としても、他社の商材を見て回る側としても、新しいビジネスに繋げようという意識が必要だということですね。

吉成 その通りです。だって東京ゲームショウには、ミドルウェア等を開発している中小企業から海外のゲーム会社まで、これまで取引のない企業もたくさん出展しているわけですからね。いろんなゲームを楽しんで回るのはもちろん大切ですが、面白いコンテンツを見つけたときに「ライセンス契約をして日本でサービス提供はできないだろうか」「この開発ツールを自社でも役立てられないか」と思い立ったら、すぐにブースの担当者と商談ができるのですから、その機会を活用しない手はないじゃないですか。実際、僕自身もゲームショウでいくつものビジネスをまとめまてきました。  

まずは目的を意識しよう

――東京ゲームショウは、一般客向けの華やかなプロモーションが話題になりがちですが、実際に足を運んでみると、専門的すぎて一般客には何がなんだかよくわからないようなブースもたくさんありますもんね。

吉成 展示会に出展する目的は企業によってさまざまです。たとえば大手企業なんかはしっかりお金をかけてビッグタイトルの新作を発表したりしますが、これはさまざまなメディアが取り上げてくれるという宣伝効果があるため、理にかなっていますよね。またゲームの専門学校であれば、ゲームショウに出展しているという実績そのものが学校のアピールになり新たな学生の獲得に効果があります。ゲームショウの出展にはそれなりに費用がかかりますし、CESAによる審査もあります。実際に一流企業なのかどうかはさておき、ゲームショウに出展することで知名度を上げたり、ブランドイメージを上げることができるわけです。

――やり方を間違えなければ、かけた費用ぶんの効果を生み出すことはできると?

吉成 出展の目的をきちんと意識していればそうそう間違うことはないはずです。しかし、僕からすると的外れなお金の掛け方をしているように感じる企業も多いんです。たとえば、メディアに注目されてもいないコンテンツがいくら一般客向けのプロモーションにお金をかけたところで無駄に終わる可能性が高いですよね。さらに、出展の前後に発売するタイトルであればまだいいのですが、東京ゲームショウは年1回の開催なので、そうそうタイミングが合うとも限りません。本当にもったいないですよね。

――そのあたりの見極めが重要なのですね。

吉成 大手企業のやっていることを中小企業がやみくもに真似をしても意味がないんです。それぞれの企業の規模や特性に合ったふさわしい使い方があるのですから、企業同士の情報収集・情報提供の場として最大限に活用すべきだと思います。  

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国内外のゲーム展示会をどのように活用すべきか、社員たちの課題として常に考えさせている。

 

吉成社長のつぶやき(37)

東京ゲームショウには自ら足を運ぶという吉成社長。じつは気に入らないことがあるらしい。 『毎回、出展企業の代表者を集めたCESA主催のパーティーがあるんだけど、かならず経産省のお役人がしゃしゃりでてきて挨拶するわけ。経産省の役人がゲーム業界に果たした役割なんてのはゼロなのに、出てくるなって言いたいね。イベント自体はいいんだけど、それが気に食わない』

プロってどんな人?(7)

専門性の高い分野にも意外に多い「シロウト」

――サクセスは海外のゲーム展示会には出展しないのですか。

吉成 残念ながら海外で展開できるコンテンツが今のところありません。可能性のあるコンテンツが持てた時には、当然出展を検討します。しかし、海外でゲームのサービスをする上で、家庭用ゲームの場合は、海外のパブリッシャーと契約するか、自社で支店を出すことが必要でしたが、モバイルやオンラインゲームはその必要がなくなりました。まさにゲームの世界は今やボーダレスです。

――販売促進の方法については如何ですか。

吉成 マスメディアへの露出にあたっては広告代理店からの提案を受けることが多いのですが、最近ではうちの社員の発案で、ニコニコ動画やYouTubeといった動画配信サイトを使った番組配信なども試しています。

――ウェブコンテンツ作りにも積極的に取り組んでいますね。

吉成 インターネットというメディアではあらゆる人や組織が情報を発信でき、その中身次第ではすさまじい人数が集まってきます。どんな大企業のコンテンツだろうが、おもしろくなければ見向きもされません。うちの番組は今のところ苦戦しているのですが、集客力=アクセス数を増やすためにはそれにふさわしいやり方があるはずです。「狙っているターゲットに適切に届けるためにはどうすればいいか」という、マーケティングの基本中の基本を現場の社員に考えさせる機会だと思って許可しましたが・・・。さて、どうなることでしょうね(笑)。

――インターネットは比較的新しいメディアとあってノウハウが完成されていない面があり、まだまだ手探り状態ということですね。それに比べると、マスメディアを利用した宣伝であればこれまでにも慣れていらっしゃるでしょうし、広告代理店が蓄積した膨大なデータやノウハウを活かせるので、効果を見込みやすいということでしょうか。

吉成 普通だったらそう考えますよね。ところが電通や博報堂といった日本を代表する広告代理店をはじめ、本当にプロフェッショナルな広告マンというものに、僕は、あまりお目にかかったことがないんですよ。宣伝の費用対効果とか、どんな方法を取ることがその企業にとって効果的なのかを知らない広告マンが9割といったところですね。

――9割!? 失礼ながら、すこし大げさでは……?

吉成 アハハ、本当にそんなものですよ。広告代理店の担当者から「1ページ広告を出さないか」と打診されたとき、「一部当たりの費用はいくら?」って質問して、答えられる人がいないんですから(笑)。 広告の掲載費というのは新聞や雑誌ごとに異なり、金額自体はプライスリストを見れば一目瞭然です。でも、そのプライスリストに載っている値段が妥当なのか、それとも高いのかを評価するには発行部数を見るしかありません。テレビコマーシャルの場合は、視聴率です。  

コスト感覚、どうなってるの!?

――そういったケースが多いとなると、広告を出す側もよく勉強しておかないといけませんね。

吉成 本当にそう思います。なぜここまで強調するかというと、じつは僕自身もかつて明細も見ずにめくら判を押してしまったことがあり、苦い思いをした経験があるんですよ(笑)。10年ほど前に「クイズ!日本語王」というDSのソフトを出したのですが、これはTBSで放送していた同名の番組を元にしたゲームだったので、テレビコマーシャルを打つことにしたんです。費用は一千数百万円という、テレビコマーシャルとしては格安の予算だったのですが、そのうち一千二百万円もの予算を映像制作費として使っていたことが後でわかったんです。となると、波代(CMを流すための電波料)はわずか数百万円しか残りません。それではちょっとしかテレビに出せないのですから、宣伝効果も何もあったものではありません。

――せっかく作ってもほとんど放送できないのでは、CMの意味がありませんよね……。

吉成 そのCMは大手広告会社に依頼していたのですが、大手といえども広告予算の使い方を理解しているとは思えませんでした。 当時、ゲームで使う15秒の映像の制作費は安ければ100万円ちょっとというところでしたから、予算内で効果を上げるためのやり方はいくらでもあったと思うんですよ。実際、細かい明細を持ってこさせたら「プロデューサー料80万円」「サブプロデューサー料70万円」から始まって、はてはお弁当代に20万、無名の外国人タレントの出演料に40万円も計上されていたのですから(笑)。

――リアルな数字を知ると、また衝撃的ですね。

吉成 思わず「この弁当、ちょっと俺んところに持ってこい」って言っちゃいました(笑)。その後、先方の制作現場の人間と部長が謝罪に来たので、試しに視聴率やCM1回あたりの費用対効果とかの質問をいくつかしてみたのですが、誰一人として答えられませんでした。つまり、広告宣伝に関してまったくのど素人だったわけです。ただ、広告代理店だけじゃなく、ゲーム会社の宣伝広報の担当者もそんなレベルの人が多いように思います。おそらく「ゲームのプログラムが組めない」「絵も描けない」「ゲームの企画もできない」という社員が消去法で営業や宣伝広告を選ぶというケースもあるのでしょうが、選んだからにはその分野のプロを目指すという自覚を持って努力するべきで、どんな業界でも同じです。  

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手痛い経験となったテレビCMの商品はこちら。

 

吉成社長のつぶやき(38)

件のテレビコマーシャル事件のあと、ちょっとした顛末があったという。 『あのあと、「迷惑をかけたお詫びに」といって大手広告会社から新聞の広告枠を無償で提供されたんだけど、媒体は日経新聞を含めた数紙で、計算してみたらなんと当時の予算の半分以上の金額だった。広告会社の売上の中身は一体どうなっているのかな、と思った。それに、3大紙の読者はゲーム広告のターゲットじゃないんだよね(笑)』

吉成社長が影響を受けた4人のビジネスマン(1)

ビジネスマンとしての吉成社長を形作ったのは、多くの「出会い」だったという。 その中でも特に大きな影響を受けたというのが、これから紹介する4人のビジネスマンだ。 天才的な頭脳、商機に対する嗅覚、他人を鼓舞する力・・・。 彼らの突出した才能を目の当たりにした吉成社長は、その力を少しずつ自分の中に吸収して会社経営に活かしてきた。  

いちばん最初の上司は、とんでもない人だった!

――吉成社長が一人のビジネスマンとして、そして経営者として影響を受けた方についてお話を聞かせてください。

吉成 「この人がいなかったら今の自分はいないな」と思う人が、4人います。性格も経歴もさまざまですが、彼らからは本当に大きな影響を受けました。その一人が、大学入試後にアルバイトとして入った会社で出会った篠澤達男さんです。僕は、英語教材を取り扱うブリタニカの一部門であるウェブスターという事業部で完全歩合制のセールスマンとして働き始めました。そのときの上司が篠澤さんです。彼は、その後ブリタニカの営業部門でトップにまで登りつめた人で、非常に優秀なセールスマン、そしてセールスマネージャーでした。

――ブリタニカでの営業のお仕事は、たしか4年間ほど続けられたのでしたよね。

吉成 そうです。僕は一浪して大学に入ったのですが、家庭の事情もあって入学前からアルバイトを始めました。それがブリタニカというアメリカの会社で、そこにはすべての新人セールスマンに短期間で研修を施すプログラムがあって、新人セールスマンは全員が「スタンダードトーク」という営業トークを叩き込まれます。 外資系の営業には大抵こうしたマニュアルが存在していて、「ごめんください」から始まって、商品の紹介の仕方から購入を渋られたときの切り返しまで、訪問先でのあらゆる状況を想定した対応方法が網羅されていました。丸暗記さえしておけばどんなド新人だろうがそこそこに結果が出せるというとても優れたものでしたから、初めての営業でも何とかなりました。

――1セット数十万円もするような高額商品を十代の若者が売りまくったというのですから、マニュアルというのは非常に効果的なのですね。

吉成 マニュアルの出来・不出来は売り上げを左右する重要なファクターだとは思います。ただ、同じマニュアルを使っていても、ほとんど商品が売れずにすぐに辞めてしまうセールスマンは大勢いましたから、万能というわけでもないんです。僕はブリタニカにいた時代、トップセールスマンであった篠澤さんの姿を見て、また自分自身の体験をもって気づいたことがいくつかあります。そのひとつが「セールスとは確率である」ということです。  

たくさんの人に会えば、それだけたくさんの商品が売れる

――その「確率」というのは?

吉成 簡単に言うと「たくさんの人に会えば、売れる数もそれに比例する」ということです。もちろんセールスマンにはある程度の販売テクニックが必要ではありますが、じつのところ「1件の成約までに何人のお客さんと会ったか」という数字は、腕のいいセールスマンもそうでないセールスマンの間にそこまで大きな差はないんですよ。

――えっ、そうなんですか!?

吉成 意外に思いますよね(笑)。売れるセールスマンとそうでないセールスマンの違いがどこで生まれるかというと至極簡単で、単純に会っているお客さんの総数が違うんです。たくさんの商品を売るセールスマンは、それだけたくさんのお客さんに会っているということなんですよ。これはどんな業界にも概ね同じことが言えます。たとえばトヨタ、日産、ホンダなどの自動車のシェアは、そのまま各自動車メーカーの営業所の数や抱えているセールスマンの数に言い換えることができます。事務機器や生命保険の営業でも同様で、如何にセールスマンを多くもつか、如何にに多くの見込み客に会うかが、業績を左右するいちばんのキーになるわけです。

――なるほど、単純明快ですね。商品を売るには会って会って会いまくるしかない、と。

吉成 そうです。ただし、会った上で話ができなければ意味がありません。訪問したときに門前払いをされずに商談にこぎつけられるかどうかはセールスマン次第。結果を出せないセールスマンは、せっかく会えても話を聞いてもらえずに終わっちゃうんです。

――話を聞いてもらえるかどうかは、さすがに確率というわけにはいかないのですね。

吉成 だからこそセールスマンはお客さんにアプローチする方法を考えるんです。たとえば「ごめんください」と直接訪問する方法もあれば、まず手紙を書いてから電話をかけるという人もいるし、直に電話をかけたり、誰かの紹介をもらったりと、やり方はさまざまです。 どんな方法でアプローチをしようかと知恵を絞るのが、セールスマンのいちばんの仕事なんです。僕は身近に篠澤さんというトップセールスマンがいたので、非常に参考になりましたね。  

サクセスが「多作」にこだわるワケ

――吉成社長はブリタニカを辞められたあとも幾つかの会社で営業マンとしての実績を積まれていますが、これは「売れる商品の数はお客さんと会えた回数に比例する」という法則に気づいたことで営業の醍醐味にハマったのでしょうか?

吉成 セールスの確率に気づいたことはセールスの仕事を続ける上で役には立ちましたが、会社の経営に関わるようになってからも支えになっています。サクセスは創業時からずっと多作にこだわっていますが、これは「たくさん作れば、そのぶん当たるゲームも多くなるはず」と考えたからです。

――そういう理由があったのですね。

吉成 ブリタニカ時代、僕は確率のほかにももう一つ、仕事の成果を上げるうえで無視できない要素に気づきました。それはモチベーションです。

――いわゆる「根性論」ということでしょうか?

吉成 ちょっと違います。 僕がアルバイト入社するよりずっと前のことになりますが、ブリタニカのセースルマンが殺人を犯してニュースになったことがあるんです。当然ブリタニカの商品がまったく売れなくなってしまったのですが、そんなときにもかかわらず、相変わらず高い売り上げをキープしていたセールスマンがいました。それが篠澤さんです。

――吉成社長の上司だった方ですね。

吉成 彼はセールスマネージャーとして数百人の部下を率いる立場にいましたが、僕は4年くらい在籍していたため、直接声をかけられたり教えを受ける機会も多かったんです。 ある時、ブリタニカのあまりにも強引な営業手法が日本消費者連盟から訴えられ、かつての殺人事件のときと同じように全国でブリタニカの商品が売れなくなりました。この時僕は、彼の凄さを実際に目の当たりにすることになったのです。

――1970年の、いわゆる「ブリタニカ商法」と呼ばれて社会問題となっていたときのことですね。

吉成 そうです。連日のように新聞やテレビで報道されて悪評が広まっていましたから、新規の契約は取れず、成約後のキャンセルが相次いでいました。このときにも篠澤さんが率いていた事務所だけが、日本で唯一、相変わらず売り上げをキープしていたんですよ。  

モチベーションが結果を左右する

――詐欺商法として訴えられているさなかに従来通りの売り上げを達成し続けるとは、にわかには信じがたいのですが・・・。

吉成 そりゃそうですよね(笑)。なにか特別なカラクリがあるのではと思われそうですが、そういったことは何もありません。僕のいた事務所ではセールスマンのモチベーションが高かっただけなんです。 「いくら熱心に営業したところで、お客さんからはどうせネガティブな反応しか返ってこないだろう」と思って営業すれば、お客さんからはその通りの反応が返ってくるものです。ところが不思議なことに「世間でどんな悪評が立っていようが関係ない」というポジティブな意識で営業すると、ちゃんとポジティブな手応えが返ってくるんですよ。そして、部下のモチベーションを上げてポジティブな意識を持たせることにかけて、篠澤さんの能力はずば抜けていました。

――なるほど。たしかに根性論とは少し違いますね。

吉成 篠澤さんは商品にまったく興味のない相手だろうが、経済的に余裕のない相手だろうが、「喜んで買いたい」という気にさせてしまう凄腕のセールスマンでした。人を元気付ける話術、いわゆるペップトークの達人だったんです。どんなに意気消沈していた部下でも、彼の話を30分、1時間と聞いているうちにみるみるやる気が漲って、張り切って次の営業に飛び出していくほどでした。

――人を乗せる天才ですね。

吉成 他人をモチベートするのがセールスマネージャーの仕事であり、セールスマンの仕事なのですから、その意味では超一流でした。社会人としてのスタート時に篠澤さんと出会ったことで、仕事の成果はその仕事に関わる人間のモチベーション次第で大きく変わるものなのだということを強く実感しました。

――全国でまったく売れない状況の中で唯一結果を出したということが、それを端的に証明していますね。

吉成 あのときの経験から、自分や他人の気持ちをポジティブに保つことの重要さを肌感覚で学びましたね。  

ブリタニカのセールスマニュアル。これを1から10までそのまま実行した。

 

吉成社長のつぶやき(39)

本当に訪問した数がそのまま営業の成果につながるのですか? 『レストランを開業しようとすると、人通りの多い場所を探すでしょ。山奥や田舎の畑の真ん中にお店を開いてもお客は来ないから。新宿や渋谷の駅前に店を出すことができれば、料理の味が多少悪くても、接客マナーが今ひとつでも売上は上がるよね。営業は足の使い方ひとつで、田舎でお店を出しているようにもなるし、人通りの多い場所にお店を出しているようにもなるから』

吉成社長が影響を受けた4人のビジネスマン(2)

20代にして一攫千金を果たした男

――ブリタニカを退社されてからも、営業のお仕事自体は続けられたのですよね。

吉成 幾つかの会社に在籍し、多くのビジネスマンを見てきましたが、なかでも特に印象に残っているのはショーン・デールという男です。こんな名前ですが、彼は日本育ちの純日本人です(笑)。彼はアメリカで流行したものを日本に持ち込んで売るという商売をしており、ビジネスのためにアメリカと日本の二重国籍を持ってました。

――どんな商材を扱っていたのですか?

吉成 彼が最初に当てたのは、戦前にアメリカの飲食店などで大流行したパンチボードと呼ばれる紙のゲームでした。簡単に言うと、紙で作ったくじ引です。A4サイズのボール紙を重ねて板状にしたものに1000から2000ほどの小さな穴を開けて、その穴の中に「当たり」か「ハズレ」と印刷された小さな紙切れを詰め込んだものです。お客さんは1回ごとに100円の料金を支払って好きな場所から紙切れを取り出すんです。「当たり」が出ると景品(賞金)がもらえるといった単純なものですが、このパンチボードが日本でも大流行したことがあるんです。日本に持ち込んだその本人から直接聞いた話ですが、末端価格を1万円から2万円に設定して、50万個は売り捌いたそうです。

――当たりの金額を大きく設定すれば、それだけギャンブル性が高まりますね。

吉成 そんなわけで、アメリカでは州によっては非合法になって禁止されていました。彼は、その商品をどうすれば合法化できるかを考え、思いついたのが、小さな紙切れに「占い」を印刷したんです。つまり、お客様には「占い」を買ってもらい、「当たり」が出るのは景品という扱いにした訳です。その商品だけで、20歳の時に始めて24歳で止めるまでに28億円稼いだそうです。

――ものすごく商才があったのですね。

吉成 一種の天才でしたね。英語がペラペラで外国に頻繁に行っていたので、海外の情報に関してはとても早かったんです。今も昔も情報格差の生まれるところには商機が生まれますから、海外で成功しているビジネスを見つけていち早く日本に持ってくるということに関してはやはり才能があったのでしょう。ただ、いま思えば、商才もさることながら運も大きかったのではないでしょうか。その後のビジネスでは大失敗もしていますから(笑)。ともあれ、僕が入社したときにはすでにパンチボードからは手を引き、別の商材を扱っていました。代表的なのは「パールベンダー」という、真珠の自動販売機です。  

売りたいのは真珠、それとも・・・

――真珠を売るための専用自販機があったのですか?

吉成 真珠と言ってもクズ真珠です。とはいえ、パンチボードを売っていた彼のことですから、もちろん真珠を売りたかったわけではありません。その頃西ドイツで合法ギャンブル機として認められていた「ロタミント」というスロットマシンに似た機械があるのですが、彼は真珠自動販売機にロタミントを組み合わせることで、景品の出る自販機に作り変えたんです。

――ロタミントをそのまま使うと日本では法に触れてしまうので、真珠の自動販売機という体裁を整えたということですか?

吉成 その通りです。真珠自動販売機に硬貨を投入するとコロコロっと小さな真珠が出てくるのですが、それと同時に「ロタミント」が動き出し、当たればジャラジャラと硬貨が吐き出されてくるという仕組みでした。「ロタミント」はあくまでもおまけ扱いです。

――隠れ蓑になっているような、そうでもないような(笑)。

吉成 現金を真珠の景品とすること自体は違法ではありませんし、その金額は「商品の価格の20倍まで」といったように、具体的に制限されています。ところがそれらの規定を定めた「景品に関する規定」は公正取引委員会(現在は消費者庁)の管轄で、当時は違反しても罰則がなかったんです。一方で「賭博法」は刑法が適用されるため、違反すれば賭博罪という罰則が課せられます。こういった不思議なグレーゾーンは今も昔もたくさん存在してるんですよね。こうして「パールベンダー」はとりたてて大きな問題になることもなく、しばらくの間全国に何百台と設置されました。  

「セールス」と「レンタル」

――「パンチボード」に引き続き、「パールベンダー」も成功したということですね。

吉成 ビジネス的にはそうですね。ただ、僕がショーン・デールのもとでいちばん勉強になったのは、法のグレーゾーンの攻め方ではありません。自販機を売るのではなく、レンタルして中身だけを売るというやり方です。僕はブリタニカの教材を始め、それまでは商材を「セールス」するという仕事をしていたため、自販機をレンタルすることで長期的な利益を生みだすというビジネスモデルはとても新鮮でした。

――確かに、自販機そのものを売り買いするというケースは聞いたことがありません。

吉成 例えばうちの会社に置いてある飲み物の自販機だって、契約した業者に場所を提供するだけです。中身の補充やメンテナンスもすべて業者が行い、売り上げの一部がうちにバックされるという仕組みです。これはゲームセンターに置いてもらうゲームマシンも同様で、ゲームをプレイしてもらった売り上げをお店と折半します。メーカーがゲーム機を売るのはオペレーターという運営業者で、オペレーターは買った機械をお店に設置させてもらって売上をお店とでシェアする訳です。

――この仕組みなら、設置させてあげる側にはまったくリスクがありませんものね。

吉成 ゲームマシンや自販機のビジネスでは、機械を売って収益を上げることよりも、如何に売上の上がる場所を確保するかのほうが重要な仕事で、これを専門にする人を「ロケーター」と呼ぶんです。

――あまり馴染みがないので「セールスマン」としてひとくくりに捉えがちですが、実際の仕事の内容には大きな違いがあるのですね。

吉成 ロケーションを確保するためにお客さんと交渉するわけですから、ロケーターのやっていることも一種の営業です。ところが商談をまとめる確率は「100万円の自販機を買ってください」と交渉するよりも、「置いてください」と交渉するほうがはるかに高いわけです。しかも、1回の商談から得られる利益は、売買が成立した場合よりも設置場所を1箇所確保したほうが大きいケースがほとんどです。  

自販機商法のメリット

――リスクを負うのは、機械を貸し出しているオペレーター側だけということですね。

吉成 ところがオペレーター側のリスクも、じつはそう大きなものではないんです。ロケーションさえ間違えなければ、継続的に収益が得られますし、仮に良くない場所に機械を設置してしまった場合、簡単に撤去して他の設置先に移すことが可能です。これが、例えばレストランやコンビニを開業した後、ロケーションを変更したいと思っても、そう簡単にはできません。

――いいことづくめじゃないですか!

吉成 「ロケーションを自由に変えられること」「セールスに比べて商談をまとめるのが容易であること」、これが自販機商法の大きなメリットです。ショーン・デールと一緒だったのは数年でしたが、彼の元でこのビジネスモデルを学べたということは、その後ゲーム業界で仕事をしていく上でとても役に立ちました。

――ところで、ショーン・デールさんが大失敗されたビジネスというのは、いったいどういった物だったのでしょうか?

吉成 やはりアメリカの商品でフリーザーとオーブンが一緒になった「ピザマティック」という商品があったのですが、それを日本で売ろうとして失敗しました。フリーザーに入った冷凍ピザを下のオーブンに入れれば簡単にピザが作れるというシンプルなマシンで、彼はそれを何百台と仕入れました。ところが当時、日本ではピザがそれほど浸透しておらず、仕入れたマシンをすべて在庫として抱えることになってしまったんです。彼はパンチボードとパールベンダーの成功で10軒以上の家を持っており、ハワイとロサンゼルスには別荘があり、飛行機もヨットも所有しているという絵に描いたようなお金持ちでしたが、ピザマティックでの失敗が原因で、財産の大半をパーにしてしまいました。

――成功談も失敗談も、なんというか豪快ですね。

吉成 とにかく強烈な個性の持ち主でしたね。  

この商品で4年で28億円稼いだという。写真は東急ハンズでレトロゲームとして販売していた戦前のもの。

 

吉成社長のつぶやき(40)

自販機商法の利点はもうひとつあるという。 『セールスマンってのは人間だから、体調が悪くなったりやる気を失ったりしたら商品を売れなくなる。だけど自販機はそれがないからね。電気さえ与えておけば文句も言わずにコンスタントに売り続けてくれるのがいいよね(笑)』  

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