プロってどんな人?(7)
専門性の高い分野にも意外に多い「シロウト」
――サクセスは海外のゲーム展示会には出展しないのですか。
吉成 残念ながら海外で展開できるコンテンツが今のところありません。可能性のあるコンテンツが持てた時には、当然出展を検討します。しかし、海外でゲームのサービスをする上で、家庭用ゲームの場合は、海外のパブリッシャーと契約するか、自社で支店を出すことが必要でしたが、モバイルやオンラインゲームはその必要がなくなりました。まさにゲームの世界は今やボーダレスです。
――販売促進の方法については如何ですか。
吉成 マスメディアへの露出にあたっては広告代理店からの提案を受けることが多いのですが、最近ではうちの社員の発案で、ニコニコ動画やYouTubeといった動画配信サイトを使った番組配信なども試しています。
――ウェブコンテンツ作りにも積極的に取り組んでいますね。
吉成 インターネットというメディアではあらゆる人や組織が情報を発信でき、その中身次第ではすさまじい人数が集まってきます。どんな大企業のコンテンツだろうが、おもしろくなければ見向きもされません。うちの番組は今のところ苦戦しているのですが、集客力=アクセス数を増やすためにはそれにふさわしいやり方があるはずです。「狙っているターゲットに適切に届けるためにはどうすればいいか」という、マーケティングの基本中の基本を現場の社員に考えさせる機会だと思って許可しましたが・・・。さて、どうなることでしょうね(笑)。
――インターネットは比較的新しいメディアとあってノウハウが完成されていない面があり、まだまだ手探り状態ということですね。それに比べると、マスメディアを利用した宣伝であればこれまでにも慣れていらっしゃるでしょうし、広告代理店が蓄積した膨大なデータやノウハウを活かせるので、効果を見込みやすいということでしょうか。
吉成 普通だったらそう考えますよね。ところが電通や博報堂といった日本を代表する広告代理店をはじめ、本当にプロフェッショナルな広告マンというものに、僕は、あまりお目にかかったことがないんですよ。宣伝の費用対効果とか、どんな方法を取ることがその企業にとって効果的なのかを知らない広告マンが9割といったところですね。
――9割!? 失礼ながら、すこし大げさでは……?
吉成 アハハ、本当にそんなものですよ。広告代理店の担当者から「1ページ広告を出さないか」と打診されたとき、「一部当たりの費用はいくら?」って質問して、答えられる人がいないんですから(笑)。 広告の掲載費というのは新聞や雑誌ごとに異なり、金額自体はプライスリストを見れば一目瞭然です。でも、そのプライスリストに載っている値段が妥当なのか、それとも高いのかを評価するには発行部数を見るしかありません。テレビコマーシャルの場合は、視聴率です。
コスト感覚、どうなってるの!?
――そういったケースが多いとなると、広告を出す側もよく勉強しておかないといけませんね。
吉成 本当にそう思います。なぜここまで強調するかというと、じつは僕自身もかつて明細も見ずにめくら判を押してしまったことがあり、苦い思いをした経験があるんですよ(笑)。10年ほど前に「クイズ!日本語王」というDSのソフトを出したのですが、これはTBSで放送していた同名の番組を元にしたゲームだったので、テレビコマーシャルを打つことにしたんです。費用は一千数百万円という、テレビコマーシャルとしては格安の予算だったのですが、そのうち一千二百万円もの予算を映像制作費として使っていたことが後でわかったんです。となると、波代(CMを流すための電波料)はわずか数百万円しか残りません。それではちょっとしかテレビに出せないのですから、宣伝効果も何もあったものではありません。
――せっかく作ってもほとんど放送できないのでは、CMの意味がありませんよね……。
吉成 そのCMは大手広告会社に依頼していたのですが、大手といえども広告予算の使い方を理解しているとは思えませんでした。 当時、ゲームで使う15秒の映像の制作費は安ければ100万円ちょっとというところでしたから、予算内で効果を上げるためのやり方はいくらでもあったと思うんですよ。実際、細かい明細を持ってこさせたら「プロデューサー料80万円」「サブプロデューサー料70万円」から始まって、はてはお弁当代に20万、無名の外国人タレントの出演料に40万円も計上されていたのですから(笑)。
――リアルな数字を知ると、また衝撃的ですね。
吉成 思わず「この弁当、ちょっと俺んところに持ってこい」って言っちゃいました(笑)。その後、先方の制作現場の人間と部長が謝罪に来たので、試しに視聴率やCM1回あたりの費用対効果とかの質問をいくつかしてみたのですが、誰一人として答えられませんでした。つまり、広告宣伝に関してまったくのど素人だったわけです。ただ、広告代理店だけじゃなく、ゲーム会社の宣伝広報の担当者もそんなレベルの人が多いように思います。おそらく「ゲームのプログラムが組めない」「絵も描けない」「ゲームの企画もできない」という社員が消去法で営業や宣伝広告を選ぶというケースもあるのでしょうが、選んだからにはその分野のプロを目指すという自覚を持って努力するべきで、どんな業界でも同じです。
吉成社長のつぶやき(38)
件のテレビコマーシャル事件のあと、ちょっとした顛末があったという。 『あのあと、「迷惑をかけたお詫びに」といって大手広告会社から新聞の広告枠を無償で提供されたんだけど、媒体は日経新聞を含めた数紙で、計算してみたらなんと当時の予算の半分以上の金額だった。広告会社の売上の中身は一体どうなっているのかな、と思った。それに、3大紙の読者はゲーム広告のターゲットじゃないんだよね(笑)』
2017年3月17日