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業界の問題、あれやこれや(4)

変な規制が多すぎる

――せっかく高スペックなプラットフォームを開発しても、日本ではそのスペックの高さが足かせになってソフト開発がなかなか進まないというのは、なにか皮肉なものを感じます。

吉成 高いスペックはゲームの可能性を広げはするけれど、ゲームのおもしろさはそれだけで決まるものではありません。たとえ高画質ムービーや迫力のあるサウンドが贅沢に使われていたって、つまらないゲームはつまらないでしょう? PS4の作品よりおもしろいPS1の作品って、たくさんあると思いますよ。

――初代PS3機ではPS2用のソフトもPS1用のソフトもプレイできたので選択肢が豊富でしたが、PS4ではPS1〜PS3のソフトとの互換性がないので、仮にPS3でおもしろそうなタイトルを見つけてもPS4用にHDリマスター化がされない限りは、PS4で遊ぶことはできないんですよね。ちょっともったいない気もします。  

2Dだからダメ!?

――どんなゲームを開発するかというのは、パブリッシャーは自由に決められるのですか?

吉成 基本的にはゲーム機を製造販売するメーカーに企画書を提出し、承認を得る、というプロセスがありますが、なかには馬鹿馬鹿しい規制もあります。 以前、『上海 万里の長城』というゲームを、いろんなプラットフォームでシリーズ展開したのですが、そのなかにはPS1版もありました。ところが版権元であるアクティビジョンがそれをアメリカで売ろうとしたところ、却下されたんです。

――日本では問題なかったのに、ソニーのアメリカ法人はダメだと判断したのですか?

吉成 そうです。しかも「3Dのゲームじゃないから」というのがその理由でした。プレイステーションは、3Dの表現力が過去のものよりも優れているということがひとつの売りでしたから、『上海』のような、ハードのスペックを活かすことができない2Dのゲームはラインナップに加えないというんです。

――そういうケースもあるんですね。

吉成 3Dのゲームじゃないから許可しないなんて、馬鹿げた話ですよね。グラフィックが2Dか3Dかというのは、作品の良し悪しには本質的には関係ありません。たとえばアニメだって手書きのセルで作るアニメもあれば、クレイアニメもあれば、フルCGのアニメもありますよね。そういった表現手法の違いをあげつらって判断するなんて、まったく理解できません。 プレイステーションソフトの審査については、日本よりもアメリカのほうが規制が厳しいですね。バグには寛容ですが(笑)。 かって当社では海外で制作されたタイトルを数多く移植して販売しましたが、バグの多さには驚きました。日本のメーカーチェックは厳しいですから、バグが発見されると差し戻されます。品質管理のレベルは、日本とアメリカではレベルが違いますね。 一方、日本は日本にも変な規制も多いのですが・・・。  

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SCEから発売されたPS版『上海 万里の長城』は、アメリカで販売することができなかった。

 

4本指だからダメ!?

――日本では、4本指のキャラクターが登場するためにプレイステーションから発売できないソフトがあったというお話を伺いましたよね。

吉成 日本では自主規制によって表現を制限されることが多いですね。差別的な意図があろうがなかろうが、文句を言われそうな表現は事前にすべて排除してしまうというのは行き過ぎだと思います。ゲームだけじゃなく、たとえばテレビで通行人の顔にモザイクをかけたりするのも、僕には異様に見えますね。海外では殆どありえませんから。

――肖像権や個人情報に関する意識は、欧米のほうがしっかりしていそうなイメージがありますが、そうでもないのですね。

吉成 いくら個人情報の保護といったって、顔にモザイクを入れて放送するような国なんて日本くらいじゃないでしょうか。facebookのアイコンだって日本人はキャラクターとかペットの写真が圧倒的に多くて、海外のユーザーからは不思議に思われていますよ。

――ちょっと神経質なのかもしれませんね。

吉成 神経質すぎると思います。先日、ニュース番組である誘拐事件を報じていたんですが、その中で犯人に個人名を特定されないようにするにはどうすればいいかなんてことをキャスターが滔々と説明していたんですよ。その方法というのが、表札を出さないとか、持ち物に名前を記入しないといったことだったので、正直あきれました。ごく一部の犯罪者に対応するために、社会全体が「顔を出さない」「名前を隠す」だなんて、過剰反応もいいところです。  

日本人はグレーゾーンを気にしすぎ

――難しいところですね。たとえば一人暮らしをしている女性なんかは、防犯のため表札を出さない人も多いと思います。

吉成 どんなことにもメリットとデメリットがありますが、僕はデメリットが大きいような気がします。女性に限らず、最近は表札に名前を出さない人がけっこういるでしょう? そうすると、隣に住んでいる人がどんな人間なのか何時までたってもわからないじゃないですか。近所付き合いがないことは、防犯上の大きなデメリットになると思います。

――たしかにそうですね。

吉成 ゲーム作りにおいても、日本特有のこうした自主規制にうんざりすることはたくさんあります。たとえば、うちでは『東京バス案内』という都営バスの運転シミュレーションゲームのシリーズを何作か出しているのですが、このゲームでは街の風景を3Dで全部表現してるんですよ。ところが社員の中には神経質な社員がいて「商標権や肖像権に抵触するかもしれないから、街にある看板をそのまま出すのはまずい」ということで、看板の大半を変更してしまったんです。

――よほど企業イメージを損なうような演出をしていなければ、むしろ宣伝になりそうな気もしますが。

吉成 そもそも看板ってのは、見てもらうために出すわけですからね。『東京バス案内』で特定のお店や企業を誹謗中傷する気も宣伝する気もありませんでしたが、街の風景をリアルに再現するのが運転シミュレーションゲームの醍醐味のひとつですなので、そこは変える必要はなかったのではないかと今も思っています。

――トラブルを避けるために慎重になりすぎたがゆえの判断だったのでしょうね。

吉成 世の中には白と黒だけじゃなくて、グレーの部分があるものですが、そのグレーの部分も事前に排除しておこうという意識なんですよね。もし訴えられたら戦えばいいだけのことなのですが、こういった過剰な配慮が日本のゲームをつまらなくしている原因のひとつだと思います。  

吉成社長の今日のひと言(30)

我が家(インタビューアー)の右隣のご夫婦とはしょっちゅう交流があり、左隣のご夫婦とは引越しのご挨拶に行った時すら居留守を使われたのだが、そういえば右隣は表札を出していて、左隣は出していなかったことを思い出した。
 
『いい人か悪い人かまではわからないけど、挨拶にも出てこないような人とは、お付き合いはしたくないね』

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