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プロってどんな人?(3)

性格は二の次!?

――サクセスの社員には外国人の方も多いと伺っていますが、積極的に外国人を採用する理由とは?

吉成 現在サクセスに在籍している外国人社員は、韓国・中国・台湾・ニュージーランド・イギリスと国籍はバラバラですが、彼らは一様にガッツがすごいんですよ。そういうやる気のある人材を入れると他ののんびりした社員たちも刺激を受けて、社内全体が活気づきます。

 

――正確な意思疎通ができないなどの問題は起こりませんか?

吉成 もちろん言葉や文化の違いから仕事がスムーズに進まないことはちょくちょくあります。でも、そこをカバーすべくお互いにコミュニケーションを取ろうと奮闘するでしょう? そういった苦労や努力をすること自体が社内にいい影響を及ぼしているのを僕は実感しています。外国人を敢えて採用している大きな狙いはそこにありますね。

 

――日本でゲームを作ろうとわざわざ海を渡ってきたくらいですから、ハングリー精神もすごそうですね。多少のハードルがあっても精力的に克服してゆきそうです。

吉成 ハングリー精神だけに限ったことではないのですが、どこかとんがったところがある人間のほうがおもしろいじゃないですか。うちには他にも色々なマイノリティー社員もいますが、そういう個性的な社員は往々にして優秀ですね。おもしろい発想を持ってるし、優れた提案もいろいろ出してくれます。

 

――個性的な社員がたくさんいらっしゃるのですね。

吉成 ええ、変わり者が多いです(笑)。クリエイティブな仕事って個性が必要ですからね。

うちは採用のときに学歴・年齢・性別・国籍・性格をいっさい問わないのでいろんな社員が入ってくるのですが、なかには協調性がなかったり、個性的過ぎて扱いづらいというタイプもいます。困り果てた社員が「もっと性格の良いやつを採用してくださいよ」なんて不満をもらす社員もいるんですが、「だったらお前も採ってないよ」って返してます(笑)。

 

差がつくのはあっという間

――サクセスでは技術職の採用に独自の技能テストを実施しているとのことですが、ゲーム業界ではテストを行わない会社も多いそうですね。

吉成 中途採用の場合はゲーム業界の経験者がほとんどですから、ある程度の実力が担保されていると考える会社が多いのでしょうね。しかし技術の進歩は日進月歩です。常に新しい知識を取り入れている人といつまでも古い知識に頼っている人を「経験者」ということで一括りにすることはできません。

 

――これまでのお話でも継続して勉強していくことの大切さを繰り返し強調されていますし、社員にも勉強熱心な方が多そうです。

吉成 社員にも口を酸っぱくして言ってますからね(笑)。

たとえば歯医者さんにかかったとき、当たり外れを感じたことってけっこうありませんか? 医師免許などの国家資格は、一度取得してしまえばよほどのヘマをしない限りは一生続けていけますから、何十年も勉強しない人も多いんです。だけど歯の治療法というのは次々と新しい技術が出てくるでしょう? それを習得するためのセミナーがまた高額なのですが、高い授業料を払ってセミナーを受け続けて自分の知識と技術をアップデートしていくのが本当のプロの姿勢なんです。でも、どんな業界でも真に「プロ」と呼べるような人間というのは、じつは限られているんですよ。

 

――たしかに上手な歯医者さんと下手な歯医者さんって、ものすごく差がありますね。ベテランの先生には経験があり、若い先生には最新の知識や技術があるとなると、どちらを選ぶべきか迷うところです。両方を兼ね備えていればベストですよね。

吉成 ゲームクリエイターも同じです。経験の長さは関係なく、勉強しているエンジニアとそうでないエンジニアでは仕事のスピードも質もぜんぜん違いますよ。プログラマーの場合は特にその傾向が顕著で、うちでいちばんできる人間といちばんできない人間では10倍くらいの差がありますね。

 

――10倍といったら、相当な差ですよね!?

吉成 実際、できるプログラマーなら1日で終わらせてしまう仕事も、できないプログラマーに任せると10日経っても完成しません。勉強していないプログラマーは稚拙で効率の悪い方法で進めるので、それくらいの差が生まれてしまうんですよ。うちの社内ではそれくらいの差だけれど、ゲーム業界全体で考えるともっと大きな差があるはずです。

 

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プログラマー試験。受験者はC、PHP、JAVA他一番得意な言語を選択。

 

吉成社長のつぶやき(34)

サクセスでは外国人の社員による英語講座も行っており、吉成社長も熱心に受講しているらしい。社内での評判はどうかと尋ねてみたところ・・・。

『それが受講者の数がぜんぜん増えないんですよ。講師に「受講者を集めるために何かしてるの?」って聞いたら、「社内メールで告知してます」って言うんですよ。受講者を集めるまでが講師の仕事なんだから、社内メールで効果がないことが分かったら、さっさと別の手を打てばいいのに。僕が「自分の仕事を自分で作れ」っていうのはそういうこと。なにも大きなプロジェクトを立ち上げろっていうことじゃなくてね』

プロってどんな人?(2)

「がんばります!」は必要ない

――新卒採用と中途採用の社員の割合はどれくらいですか?

吉成 うちでは新卒が3分の1、中途が3分の2といったところです。中途採用の社員は、前職もゲーム会社であることがほとんどです。日本では毎年ゲーム会社の1割が廃業していますから、技術を持った人はゲーム業界内をぐるぐる巡っていることになりますね。

 

――すでにゲーム業界で経験を積んでいる中途採用と比べ、新卒の社員を一から育てるには時間や手間がかかりそうですね。

吉成 社会経験ゼロの新卒社員にいきなり大きな仕事を任せることはできませんが、うちには多くのラインがありますから、ゲーム専門学校で学んできた新卒社員はすぐにプロジェクトに参加させ、経験を積ませることができます。ですから新人の育成が特に大きな負担になるということはありませんね。強いて言えば「こんな作品を作りたい」とか「こういうプロジェクトに携わりたい」という目標を明確に持っている新卒社員はほとんどいないので、そこは中途採用に劣る部分だと言えます。

 

――「ゲームを作りたい」という意欲はあれど、具体的にはまだうまくイメージできていないと?

吉成 はい。でも、それはそれでいいんですよ。たとえば大学に入る時に「どの学部でどんなことが学ぶことができ、将来どんなふうに役に立つのか」を理解したうえで専攻を選ぶ高校生なんてほとんどいないじゃないですか。下手をすれば大学の先生すらそんなことわかってません。偏差値で選んだ無難な大学に入るというパターンが多いはずです。大学入試の時点で明確な人生プランを立てている高校生がいないのと同じように、会社だって新卒で入社した時点でそこまで求めたりはしません。ただ「良いゲームを作りたい」という意識だけはしっかり持っていてほしいですね。

 

――常にその意識を持っていれば、自ずと成長して具体的な目標も生まれますね。

吉成 ゲーム会社の使命は良いゲームを生み出すことで、そのためには社員一人一人が良い作り手に成長する必要があります。いわゆる「クソゲー」が生まれる原因は、作り手がクソだからにほかなりません。だから「できるだけ早く一人前のクリエイターになりたい」という意欲を持つ社員をゲーム会社は求めています。いつまでたっても企画書の1本も出さずに言われたことだけを無難にこなしているような社員は必要ありません。

 

――ゲームの作り手の中には「どんな仕事を指示されても全力で頑張る」というタイプもいるのではないですか?

吉成 「頑張る」ということを日本人の美徳のように考える人も多いと思うのですが、僕は、頑張ること自体に価値を感じません。社員たちにはいつも話しているのですが、無能な人間にやみくもに頑張ってもらうことほど会社にとって迷惑なものはないんですよ。職種に限らず、社員として大事なことは「どれだけ頑張るか」ではなく、事に当たって必要な情報を集め、段取りを考えて仕事に取りかかることです。

 

大口を叩くくらいのほうがいい

――ゲーム会社に入ったからには、自分の企画したゲームを手掛けたいという望みを誰もが持っていると思います。ことゲーム企画の提案に関しては、熾烈なアピール合戦になりそうですが。

吉成 社員たちが「こんなゲームを作りたい」「これは自分に任せろ」と言ってくれることが、社長にとってはいちばん楽ですね。もちろん商品開発には時間もお金も必要ですからある程度の勝算がないとGOサインを出せませんが、提案者のやる気に押されて承認してしまうこともあります。

 

――熱意や勢いって重要なんですね。

吉成 ゲームっていうのは複数の人間がチームを組んで作るでしょう? だから時には空中分解しそうになることもあるのですが、誰かひとりでも狂ったような人がいればなんとかなるものなんですよ(笑)。「四の五の言わずに俺に任せろ!」というくらいがいいんです。人の顔色を見ながら調整を重ねるような人間ばかりが集まっても、ろくなゲームはできませんからね。

 

――一歩間違うと、とんでもない作品ができてしまいそう……(笑)

吉成 これほど変化のスピードが速い時代に「これを作っておけば手堅い」なんてゲームは存在しません。ヒットを確信して出したゲームだって半分以上は外れるのですから。ゲームビジネスというのはある意味ギャンブルなんです。どのみち博打なら、気概のある人に任せるほうが博打しがいがあるでしょう? そういったタイプの社員がもっと増えてほしいですね。

 

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1つの棚に約250タイトルが収納されている。この中でヒットした作品は1割。

 

吉成社長のつぶやき(33)

サクセスが開発するタイトル数は、年間約30本。企画を通すのは並大抵のことではなさそうだ。

『僕が出す企画も多いから、社員の企画で採用されるケースは実際にはもっと少数。社員は270人いるけど、企画を出すペースなら1対270でも負けないよ(笑)』

プロってどんな人?(1)

業種を問わず多くの企業人と接し、社内でも人材の育成に力を注いできた吉成社長だが、時には、彼らのプロとしての姿勢に物足りなさを感じることもあるという。ゲーム業界のみならず社会人として求められる資質、そして取り組むべき課題について語ってもらった。

 

ゲームスクールで何を学ぶ?

――サクセスの創業から40年、これまでいろんなタイプの社員がいらっしゃったと思いますが、昔と今で変化を感じることはありますか。

吉成 少子化という流れの中で、日本人全体の知的レベルが下がっているように感じます。ゲーム業界に限っていうと、コンピューターゲームの黎明期には非常に高い専門知識がなければクリエイターにはなれませんでしたから、当時と今を比べると、ゲームクリエイターの基礎的な学力の差は歴然です。

 

――つまり、クリエイターの質が下がってきていると?

吉成 いいえ、一概にはそうは言えません。昔と違って今は優れたツールがたくさん開発されていますから、ゲームクリエイターを目指す上では学力の差などほとんど問題になりませんから。さらに日本にはゲームの専門学校も多く、卒業後すぐに戦力になる優秀な人材が毎年コンスタントに輩出されています。ゲームの専門学校がこんなに多いのは世界広しといえども日本くらいですよ。

 

――授業料を払って専門学校に入るくらいゲーム作りに対する意欲が高いのですから、会社でもバリバリ働いて貢献してくれそうですね。

吉成 ところがそう簡単にもいかなくて、与えられた仕事は黙々とこなすけれども仕事を仕切ったり人を引っ張っていくのは苦手という人が増えているんですよ。ゲーム業界ではもともとこういったタイプの人間が多く、部長や課長を任せられる人材が少ないことが悩みの種なんです。うちにも「仕事が増えて大変だから管理職にはなりたくない」という社員がいるので、ちょっと危機感を覚えますね。

 

「やりたくない」からやめちゃうの?

――技術者としての能力とゲーム会社の社員としての適性はまた別ということですか。逆に考えると、ゲーム業界で働くことを考えている人は、専門スキルを磨くだけでなく同じ組織のメンバーに意識を向けることを心がけると、就職の大きなアドバンテージに繋がるかもしれませんね。

吉成 統率力は一朝一夕に身につくものではありませんが、もうすこし積極性を持つ人が増えるといいなと思います。

以前、あるゲーム専門学校の先生から聞いた話なのですが、その学校のテニスクラブで部長を決める際に、なかなか引き受け手がいなかったそうなんです。らちがあかないので、担当の教師が見込みのある生徒を指名したところ、その生徒は素直に首を縦に振らず、最終的には「クラブを辞めさせていただきます」となったとか。

 

――そこまで嫌がるというのはすごいですね。

吉成 冗談みたいな話ですよね(笑)。人を統率するという経験で得られるメリットよりも、生ずる責任や煩わしさといったデメリットのほうが大きいと判断したのでしょう。たとえ苦手であっても必要とあらばリーダーシップをとれる人を企業は求めているのですが・・・。

 

――せっかく経験を積めるチャンスなのに、もったいない気がします。

吉成 日本の社会全体にそういう消極的なタイプが増えてるのかもしれません。たとえば大手総合商社であっても、海外赴任を嫌がる社員が多いそうです。僕ら団塊の世代は、海外で仕事することに憧れた世代なので、そういった風潮に驚きを覚えますが、今の若い人たちには海外に対する憧れは無くなっていますね。

 

――採用する側からすると、頭の痛い問題ですね。サクセスの入社試験では社長が面接を行って最終判断をされているそうですが、特に重視するポイントはありますか?

吉成 うーん。採用を決めるのはほとんど直感かな。

 

――直感ですか? けっこうアバウトですね!?

吉成 僕は日本のゲーム業界の中でいちばん多く面接をしてきた男ですから(笑)。志望者には新卒でも中途採用でも独自の技能テストを行っているので、一定の条件をクリアした人材が入ってきます。その上で僕が判断を下すのは、テストの数値や履歴書以外の部分になります。短い面接時間で「使える人材か、否か」という点を見極めるには、経験からの直感がものを言いますね。

 

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過去サクセスに応募し面接した人数は数千人。

 

吉成社長のつぶやき(32)

就職活動がうまくいかない人に、何かアドバイスは?

『ある元社員から「書類選考で落とされて、なかなか面接にこぎつけない」という相談を受けて履歴書を見せてもらったことがあるんだけど、受からない理由は簡単、本人のアピールポイントが的外れで無駄な内容が多かった。ひょいひょいっと添削して渡してやったら、すぐに就職が決まったよ。まずやるべきことは企業がどんな人材を欲しているかを把握すること。それがわかれば、自分が何をアピールすればいいかは自ずとわかるでしょう』

業界の問題、あれやこれや(5)

スマホゲームの隆盛と問題

――日本国内ではスマホゲームは元気ですが、PS4をはじめとするコンシューマーゲームは勢いがありませんよね。コンシューマー事業から撤退するゲーム会社もあって寂しい限りです。

吉成 かつてアーケードからコンシューマーへとゲームの主流が移行した時代、ゲーム市場はコンシューマーソフトだけで年間5000億円は超えていました。今やコンシューマーはものすごく縮小しましたが、じつは、スマホゲームやオンラインゲームなどの隆盛でゲームのマーケット自体はどんどん大きくなり、ゲーム市場全体ではすでに1兆円を超えてるんですよ。

 

――短期間でとんでもない成長を遂げたゲーム会社が何社もありますもんね。

吉成 一方で、消えてゆくゲーム会社もたくさんあるわけですが、それはこれまでも話したとおり、ゲーム業界のメインストリームを捉え損ねたり、新しい技術のキャッチアップができていない会社が多いんです。新しい技術といっても、すでにある程度の技術や知識を持っている技術者であれば習得に時間がかかるものでもないのですから、そういった理由で廃業に追い込まれるのは残念ですよね。ゲームに関わる人間は、継続して勉強していくことが宿命です。

 

――スマホゲームは手軽に始められることもあり、爆発的なヒット作もたくさん生まれていますが、その一方で課金がらみの問題も大きく取り沙汰されるようになりました。

吉成 1つのタイトルで年間何百億も稼ぐゲームがごろごろあるわけですから、社会的な影響も大きいですよね。スマホゲームは基本的には無料でプレイできるものがほとんどですが、ガチャやくじといった課金要素に際限なくお金を注ぎ込むユーザーもいます。そして、こうしたユーザーがゲーム収益の大部分を担っているわけです。

 

――レアアイテムを入手できるかもしれないと思うと、「10連ガチャなら多少は元が取れるし」「あと1回」「もう1回だけ」と、ついついガチャを回してしまう気持ちもわかります。

吉成 ガチャ自体、射幸心を煽るシステムになっていますからね。いまは入手確率の表示が義務付けられていますが、規制が入るまではそれもなかったので、いっそうその傾向は強かったと思います。自分で稼いだお金であればまだしも、保護者のお金で決済することを理解していない中高生くらいの子供が無制限にお金をつぎ込んでしまったのも当然だったのではないでしょうか。

 

究極の理想は・・・

――ユーザーを保護するために業界全体で規制を作っても、規制をかいくぐるようにして課金にまつわる新たな問題が次々と起こっています。無料のゲームを運営するためには、どうしてもガチャやくじなどに頼らざるを得ないのでしょうか。

吉成 ほとんどすべてのゲームでガチャを導入していますが、過度の課金システムを設けなくても大きな収益を上げているゲームもありますし、ガチャのない良質なゲームもありますよ。うちもガチャのないゲームをけっこう出していますし、この手の問題は起こっていません。

 

――課金なしで、どのように収益を上げているのでしょう?

吉成 一つは広告ですね。僕は、ゲームビジネスの究極の理想というのは、広告のみで収益をあげることだと思っています。テレビで言うとNHK方式ではなく民放方式ですね。

 

――課題も多そうですが、いい方向に進むように期待したいです。

吉成 何十万円も課金するほど夢中になれるというのはそれだけおもしろい作品なのだろうし、そんなゲームがあるというのは、ユーザーにとってはある意味幸せなことかもしれません。でも、ユーザーは数多あるゲームの中から好きなものを選択できるわけですから、有料・無料にかかわらずいろんなゲームに目を向けてみてほしいですね。

 

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docomoで展開している[スゴ得]

吉成社長のつぶやき(31)

スマホの問題といえば、「ポケモンGO」は世界中でいろんな問題が起きたことも記憶に新しい。日本でも総務省や消費者庁から、歩きスマホやながら運転をしないよう異例の注意喚起がなされたが、吉成社長は特に興味がない様子だった。

『大ヒットして瞬間的に熱狂はするだろうけど、たぶん一時のブームで終わるんじゃないかな。とくに日本人はすぐに飽きそうだしね』

業界の問題、あれやこれや(4)

変な規制が多すぎる

――せっかく高スペックなプラットフォームを開発しても、日本ではそのスペックの高さが足かせになってソフト開発がなかなか進まないというのは、なにか皮肉なものを感じます。

吉成 高いスペックはゲームの可能性を広げはするけれど、ゲームのおもしろさはそれだけで決まるものではありません。たとえ高画質ムービーや迫力のあるサウンドが贅沢に使われていたって、つまらないゲームはつまらないでしょう? PS4の作品よりおもしろいPS1の作品って、たくさんあると思いますよ。

 

――初代PS3機ではPS2用のソフトもPS1用のソフトもプレイできたので選択肢が豊富でしたが、PS4ではPS1〜PS3のソフトとの互換性がないので、仮にPS3でおもしろそうなタイトルを見つけてもPS4用にHDリマスター化がされない限りは、PS4で遊ぶことはできないんですよね。ちょっともったいない気もします。

 

2Dだからダメ!?

――どんなゲームを開発するかというのは、パブリッシャーは自由に決められるのですか?

吉成 基本的にはゲーム機を製造販売するメーカーに企画書を提出し、承認を得る、というプロセスがありますが、なかには馬鹿馬鹿しい規制もあります。
以前、『上海 万里の長城』というゲームを、いろんなプラットフォームでシリーズ展開したのですが、そのなかにはPS1版もありました。ところが版権元であるアクティビジョンがそれをアメリカで売ろうとしたところ、却下されたんです。

 

――日本では問題なかったのに、ソニーのアメリカ法人はダメだと判断したのですか?

吉成 そうです。しかも「3Dのゲームじゃないから」というのがその理由でした。プレイステーションは、3Dの表現力が過去のものよりも優れているということがひとつの売りでしたから、『上海』のような、ハードのスペックを活かすことができない2Dのゲームはラインナップに加えないというんです。

 

――そういうケースもあるんですね。

吉成 3Dのゲームじゃないから許可しないなんて、馬鹿げた話ですよね。グラフィックが2Dか3Dかというのは、作品の良し悪しには本質的には関係ありません。たとえばアニメだって手書きのセルで作るアニメもあれば、クレイアニメもあれば、フルCGのアニメもありますよね。そういった表現手法の違いをあげつらって判断するなんて、まったく理解できません。

プレイステーションソフトの審査については、日本よりもアメリカのほうが規制が厳しいですね。バグには寛容ですが(笑)。

かって当社では海外で制作されたタイトルを数多く移植して販売しましたが、バグの多さには驚きました。日本のメーカーチェックは厳しいですから、バグが発見されると差し戻されます。品質管理のレベルは、日本とアメリカではレベルが違いますね。

一方、日本は日本にも変な規制も多いのですが・・・。

 

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SCEから発売されたPS版『上海 万里の長城』は、アメリカで販売することができなかった。

 

4本指だからダメ!?

――日本では、4本指のキャラクターが登場するためにプレイステーションから発売できないソフトがあったというお話を伺いましたよね。

吉成 日本では自主規制によって表現を制限されることが多いですね。差別的な意図があろうがなかろうが、文句を言われそうな表現は事前にすべて排除してしまうというのは行き過ぎだと思います。ゲームだけじゃなく、たとえばテレビで通行人の顔にモザイクをかけたりするのも、僕には異様に見えますね。海外では殆どありえませんから。

 

――肖像権や個人情報に関する意識は、欧米のほうがしっかりしていそうなイメージがありますが、そうでもないのですね。

吉成 いくら個人情報の保護といったって、顔にモザイクを入れて放送するような国なんて日本くらいじゃないでしょうか。facebookのアイコンだって日本人はキャラクターとかペットの写真が圧倒的に多くて、海外のユーザーからは不思議に思われていますよ。

 

――ちょっと神経質なのかもしれませんね。

吉成 神経質すぎると思います。先日、ニュース番組である誘拐事件を報じていたんですが、その中で犯人に個人名を特定されないようにするにはどうすればいいかなんてことをキャスターが滔々と説明していたんですよ。その方法というのが、表札を出さないとか、持ち物に名前を記入しないといったことだったので、正直あきれました。ごく一部の犯罪者に対応するために、社会全体が「顔を出さない」「名前を隠す」だなんて、過剰反応もいいところです。

 

日本人はグレーゾーンを気にしすぎ

――難しいところですね。たとえば一人暮らしをしている女性なんかは、防犯のため表札を出さない人も多いと思います。

吉成 どんなことにもメリットとデメリットがありますが、僕はデメリットが大きいような気がします。女性に限らず、最近は表札に名前を出さない人がけっこういるでしょう? そうすると、隣に住んでいる人がどんな人間なのか何時までたってもわからないじゃないですか。近所付き合いがないことは、防犯上の大きなデメリットになると思います。

 

――たしかにそうですね。

吉成 ゲーム作りにおいても、日本特有のこうした自主規制にうんざりすることはたくさんあります。たとえば、うちでは『東京バス案内』という都営バスの運転シミュレーションゲームのシリーズを何作か出しているのですが、このゲームでは街の風景を3Dで全部表現してるんですよ。ところが社員の中には神経質な社員がいて「商標権や肖像権に抵触するかもしれないから、街にある看板をそのまま出すのはまずい」ということで、看板の大半を変更してしまったんです。

 

――よほど企業イメージを損なうような演出をしていなければ、むしろ宣伝になりそうな気もしますが。

吉成 そもそも看板ってのは、見てもらうために出すわけですからね。『東京バス案内』で特定のお店や企業を誹謗中傷する気も宣伝する気もありませんでしたが、街の風景をリアルに再現するのが運転シミュレーションゲームの醍醐味のひとつですなので、そこは変える必要はなかったのではないかと今も思っています。

 

――トラブルを避けるために慎重になりすぎたがゆえの判断だったのでしょうね。

吉成 世の中には白と黒だけじゃなくて、グレーの部分があるものですが、そのグレーの部分も事前に排除しておこうという意識なんですよね。もし訴えられたら戦えばいいだけのことなのですが、こういった過剰な配慮が日本のゲームをつまらなくしている原因のひとつだと思います。

 

吉成社長の今日のひと言(30)

我が家(インタビューアー)の右隣のご夫婦とはしょっちゅう交流があり、左隣のご夫婦とは引越しのご挨拶に行った時すら居留守を使われたのだが、そういえば右隣は表札を出していて、左隣は出していなかったことを思い出した。
『いい人か悪い人かまではわからないけど、挨拶にも出てこないような人とは、お付き合いはしたくないね』

業界の問題、あれやこれや(3)

下請けの立場が弱すぎる!

――これまで日本のゲーム業界の問題点をいくつか伺いましたが、海外では事情が異なるのでしょうか?

吉成 アメリカでは、ゲームがヒットしたときに、関わったスタッフや下請け企業に見返りの報酬があるのが当たり前です。ところが日本のゲーム業界ではそういったインセンティブの制度がほとんどないんですよ。これも日本の良くないところですよね。

 

かつてテレビゲームの一時代を築いた『インベーダー』を開発したゲームクリエイターの西角友宏さんが、当時もらったボーナスは他の社員と変わらなかったというエピソードは有名ですが、今でもそういった状況はあまり変わってません。

 

――スタッフや下請け側にもメリットが用意されていれば、仕事の意欲が上がりそうです。

吉成 アメリカだと、たとえ大手企業と下請けの子会社という関係であっても、開発する現場が大きな力を持っているケースがとても多いんです。日本ではそういったケースはかなり特殊で、「メタルギア」シリーズを開発したゲームデザイナーの小島秀夫さんのスタジオとコナミの関係がいちばん近かったかもしれませんね。まあ、いろいろ問題があったとは聞いていますが(笑)。

 

――日本でもそういった取り組みをしている会社はあるんですか?

吉成 サクセスの取引先の下請けさんとの間では「たくさん売れた場合にはロイヤリティをつける」という契約を結ぶことが多いです。でも、うちが受託している仕事の発注元にそういった契約を持ちかけると「そんな契約とんでもない」「前例がない」と、にべもなく断られるケースは少なくないですね。

 

――サクセスが発注元と下請け、両方の立場で仕事をされているからこその、対等な目線を感じます。

吉成 うちの場合、取引先の企業だけでなく、社員にもインセンティブを与える制度を取り入れています。ヒット作が出ると、そのプロジェクトや部門ごとに営業利益の何パーセントかを報奨金として支給するという仕組みです。

 

インセンティブを導入

――大ヒットを作ればそれだけボーナスも大きくなる、となれば社員のモチベーションは相当高そうですね!

吉成 まあ、ボーナスでやる気の出る人とそうでない人っているんですけどね(笑)。プログラマーだろうがデザイナーだろうがプランナーだろうが、ゲーム会社の人間っていうのは、けっこうサラリーマン気質の人も多いですから。ただ、成功したときにちゃんと見返りがあるような制度があれば、日本のゲーム会社ももうちょっと元気になるんじゃないかなと思ってます。

 

――最近では、国内産でもPS4のビッグタイトルがいくつか発売されましたが、やはり売れているタイトルは海外の作品が多いという印象です。やはりスタジオや開発会社が力を持っている海外のほうが、元気があるのでしょうか。

吉成 PS4ほどの高スペックなプラットフォームになると、グラフィックの性能がアップしたぶん、ソフトの開発にはお金と時間がかかりますからね。ファミコン時代と比較すると、コストは何倍、何十倍にも膨れ上がっているため、事実上大手の会社しか大作は開発できないという状況になってます。PS4の主要なタイトルはほとんどがアメリカ製ですが、大きな資本で大掛かりにやっているんです。

 

――そういった違いも大きいのですね。

吉成 映画産業に似てきていますね。アメリカ国内には映画の大きなマーケットがあるでしょう? それだけでなくヨーロッパやアジアなど、海外にも配給して全世界で上映できるという環境が整っています。だから、1作に100億以上の製作費をかけるようなタイトルがごろごろあるんです。

ゲームもそれに近いところがあります。特に家庭用ゲームに関して言えば、アメリカはヨーロッパを含めて日本の4、5倍のゲームユーザーがいて大きなマーケットを形成しているので、それだけ投資できるお金も大きいんですよね。日本はアメリカと比較するとマーケットが小さいので、開発にお金がかかるPS4のソフトではどうしても遅れをとってしまいます。

 

――ことPS4のソフトとなると、日本の開発会社ではなかなか太刀打ちできそうにありませんね。

 

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『おさわり探偵小沢里奈』の開発を委託したビーワークスとインセンティブ契約を結んでいたことから『なめこ栽培』が生まれ、双方に大きなメリットをもたらした。

 

吉成社長のつぶやき(29)

「なめこ栽培」はDS版「おさわり探偵小沢里奈」のスピンオフ製品だったという。

『DS版「おさわり探偵小沢里奈」の開発を委託していたビーワークスという外注先から、スマフォへの移植の提案があったんです。スマフォ版「おさわり探偵小沢里奈」の売上が今ひとつだったことから、その販促用のアプリとして作ったものが「なめこ栽培」で、それがヒットしたから、サクセスにも予想以上のロイヤリティー収入が入ってきた。移植した「おさわり探偵小沢里奈」がヒットしていたら、「なめこ栽培」は生まれていなかった。ヒットの法則?、ヒットってのはどれも運だね(笑)』

業界の問題、あれやこれや(2)

ブラック企業が多すぎる!

――ところで、下請け会社の経営悪化にはどういった理由が考えられますか?

吉成 新しい技術に対応できずに注文が来なくなるということもありますが、もう一つ、大きな原因としては、実際にやらなくてはいけない仕事の量が受託した金額を大きく上回るというケースが挙げられます。 以前にもお話ししたとおり、最初に1千万円で契約を結んでしまえば、途中の仕様変更などで、実際にかかった金額が2千万円、3千万円と膨れ上がろうが「最初の契約は1千万じゃないですか」と言って押し通す会社が、この業界には多いんです。

 

――なにかと厳しい条件を押し付けられがちな下請け企業がブラック企業化していくのも、ある意味当然かもしれませんね。

吉成 ところが、ブラック企業は下請け企業だけの専売特許ではないんです。ある大手企業では過酷な労働環境に追い詰められた社員が何人も自殺してしまったというのは、有名な話です。

 

――耳にしたことはありますが、都市伝説かと思っていました。

吉成 いま、非正規雇用が社会問題になっていますよね。その非正規雇用を最も多く生み出している業界のひとつが、ゲーム業界です。ゲーム会社もかつては正社員を雇用していたものですが、ある時期から契約社員に切り替える会社が増えてしまったんです。ある有名なゲーム会社は、ある時期から、正社員として採用した社員を含めてすべての社員を契約社員に切り替えたんです。いちおう合意という体裁をとってはいましたが、法的にはアウトです。

 

――非正規雇用制度は企業側からすると賃金や労務コストを節約できるというメリットがありますが、労働者側からすると不満だらけでしょうね。非正規労働者のなかには正規労働者と同じ技能を持ち同じ仕事をしている人も多いと聞きますが、立場は非常に弱く、いろんな格差を受け入れなくてはならないのですから。

吉成 もちろん企業側は労働者側のメリットも謳っています。実際、ゲーム業界の非正規雇用制度は、マイクロソフトの労働形態を真似たところから始まった、と私は見ています。でも、マイクロソフトは社内に何百人という億万長者を輩出していますから、企業側にも労働者側にも利益をもたらすことに大成功したロールモデルとして喧伝されています。

 

――それを伺って少しは安心しました。

吉成 ところが、マイクロソフトは桁外れの急成長をして、見合うだけの報酬をしっかり提供していたからこそ成功したわけで、日本のゲーム業界では、企業側にとって都合の良い部分だけを採用しているようなところがありますね。

 

毎年10%のゲーム会社が倒産!?

吉成 非正規雇用制度に加え、問題にさらに拍車をかけているのが裁量労働制です。会社に来る回数や就業時間には決まりを設けず「各自の裁量で自由に働いてもいいですよ」と謳っていますが、実際には割増賃金を支払わなくてもすむようにする制度です。

 

――真っ黒ですね。そんな中でモチベーションを保つのはかなり難しそうです。

吉成 ええ、ゲーム会社で裁量労働制を取っている会社でブラックな企業は少なくないですね(笑)。

 

――ブラック企業にもさまざまなケースがあることがわかりましたが、自殺者までが出ているとなると状況はかなり深刻ですよね。せっかく能力を身につけて仕事に就いても、心身の健康を損なうまでに酷使されたり、使い捨てにされるというのでは・・・。

吉成 そうなんです。しかも資金繰りの悪化からブラック企業になったような会社は倒産の危機とも隣り合わせですから、働く人たちの不安は大きいでしょうね。

 

――サクセスの取引先でも、倒産に至ったようなケースは多いのですか?

吉成 規模の大小にかかわらず、たくさんあります。1年間でいったいでどれくらいのゲーム会社が消えてゆくのかと気になって、調べてみたことがあるんですよ。以前「ゲーム業界就職読本」という本が毎年発行されていて、その中に就職先候補であるゲーム会社一覧が掲載されていたんです。その一覧にある会社の入れ替わりを手作業で集計してみたんです。そうしたら毎年、10%前後の会社が入れ替わっていました。

 

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巻末に記載されていたゲーム会社約300社の内、今残っている会社は約1割。

 

――企業自体も長く存続しつづけるのが難しい業界と言えそうですね。

 

吉成社長のつぶやき(28)

毎年10%のゲーム会社が淘汰されていくと聞いて、かなり衝撃を受けたのだが・・・。

『他の業界はどうなのか、という疑問が湧いて、サクセスの旧事務所にが、国道1号線に面した場所だったんだけど、五反田駅から自社との間にある、1号線沿いの1階の店舗を全部調べたことがあるんですよ。そうしたらなんと、10年間で半数以上が入れ替わっていた』

業界の問題、あれやこれや(1)

ゲームを取り巻く環境は時事刻々と変化している。次々と新しい技術やシステムが生まれ、中核となるトレンドは瞬く間に移り変わる。そんな日本のゲーム業界には根深い問題がいくつもはびこっているという。吉成社長の考えるゲーム業界の抱える病巣とは? そして、その打開策は・・・?

 

洋の東西を問わず…

――社員の意識改革と労働環境の向上には、創業当時からずいぶん気を配ってこられたのですね。

吉成 社内でやれることには取り組んでいますが、ゲーム業界を全体的に覆う問題も多く、到底サクセス一社だけで解決できるはずもありません。たとえば、取引先や外注先とのトラブルは毎年何かしら起こります。また、社員に無理な働き方を強いるブラックな企業も多く、そこで働くクリエイターたちは疲弊してドロップアウトしてしまうんです。業界全体で取り組まなければならない問題は山積みです。

 

――取引先とのトラブルで、コミュニケーション能力は関係していますか?

吉成 取引先に限らず社内でのトラブルも、原因の殆どがコミュニケーション・トラブルと言ってもよいのではないでしょうか。元をたどっていくと「双方の意図が伝わってなかった」なんて瑣末なことが多いんですよ。言った言わないから始まって感情のこじれが生まれると、その後も仕事がうまくいかなくなります。肩書きや立場に関係なく、コミュニケーション能力の高い人は総じて仕事ができる人が多いですね。

 

――ゲームクリエーターは、ものづくりのほうにばかり興味が向いてしまうのかもしれませんね。

吉成 ゲームクリエイターというのは、たいていがオタク気質なんですよ。総じてオタクの人達は、コミュニケーションが苦手な人が多いですね。でもオタクであることは、ゲームクリエイターであるための必須の条件でもあるんです。オタクでないゲームクリエイターが面白いゲームを作るなんて、あり得ません。

この傾向は日本に限ったことではありません。僕は時折、海外のゲームショーにも足を運ぶのですが、会場がオープンする前からずらりと列ができているのを毎回目にします。そこに並んでいる人たちの表情や人相を見ると、どこの国も同じなんですね。「あ、ゲームオタクだ!」ってすぐわかります。

 

――オタクに国境はないと(笑)。

吉成 笑い話のようですが、これってゲーム業界の普遍的な現象なんですよ。

 

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モスクワのゲームショー開場前の長蛇の列

 

悪循環が止まらない!?

吉成 ゲームの下請け会社が、開発でトラブルを起こすことはよくあります。「受けた仕事を納期に納品できない」というケースも多いんです。うちも外注を使うことが多いのですが、年に1、2件はそういったことが起こります。たとえ十分な技術やノウハウを持っていても、一度起こってしまったトラブルをリカバリーするだけの時間や人員の余裕がない会社が多いんですね。だから、事前に取引先の開発体制と人員の確認をすることは、トラブルを未然に防ぐためにもとても重要なことなんです。

 

――昨年の平成27年でいうと、サクセスが発売したタイトル数は26本でしたが、開発トラブルが起こる割合は単純計算で全体の4~8%と、無視できない数字になりますね。未完成のものを納品されたり、あるいは納品自体がされなかった場合にはどうするのですか?

吉成 ソースデータをすべて引き上げて、もう一度サクセスの社内で作り直すというケースも何回かありました。

 

――そうなると、社内で回していた他の仕事に影響が出るという事態にもなりかねないのでは?

吉成 その通りです。当社は自社タイトルの制作と受託開発の両方をやっているので、自社タイトルの開発を中断したり、延期したりして、受託開発に影響がないようにしています。

 

――そういった事態が毎年のように起こっていると?

吉成 ゲーム業界の構造的な問題にも直結するのですが、ゲームの下請け会社には零細企業が多いので、もともとラインの数が少ないんです。それなのに、経営が苦しくなるとどうしても仕事をたくさん取ってやり繰りしようと無理をして、限りられた社員に掛け持ちで仕事をさせることになります。そういった状況ではトラブルも起こりやすいし、一度トラブルが起こってやり直しとなれば、仕事量はますます膨れ上がります。社員は土日も休日も関係なく徹夜を繰り返し、最終的には体を壊したり、うつ病になって会社に来なくなってしまう。そうなると、ますます仕事が回らなくなる・・・。まさにブラック状態です。

 

――せっかく仕事を取ってきても人材を失ってしまっては仕事も完遂できず、経営がさらに悪化してしまうのでは逆効果ですよね。

吉成 悪循環です。さらに、そもそも外注先が資金繰りの厳しい会社であれば、支払ったお金を返してもらえないケースもありますから、こうした負の連鎖も無視できません。たとえ健全な経営状態にあっても、資本の少ない零細企業がそのあおりを受ければ、急激に業績が悪化したりブラック化も起こりえますからね。

 

――ゲーム業界を支える下請け企業の現状は、過酷なのですね・・・。

 

吉成社長のつぶやき(27)

サクセスの取引先で、絵に描いたようなブラック企業があったらしい。

『「リングドリーム」の開発を最初に任せた会社はね、社員の一人がうつ病になり、一人が胃潰瘍になり、一人が蒸発しちゃった(笑)。当然、アプリは完成しなかったね』

サクセスの企業風土(5)

元気に働いてほしい

――うつ病はいまや珍しい病気ではないと思うのですが、他の業界に比べても罹患者数が多いと感じますか?

吉成 少し前までは日本では精神的な疾患に対する偏見が今よりもずっと酷かったので、「自分はうつ病です」とはなかなか言い出せないような風潮でした。だから統計と言えるほどのものはないのですが、僕はこの40年ゲーム業界にいて、本当にたくさんの人がうつ病を発症するのを見てきたんです。うつ病は業界全体が抱える大きな問題だと思っていますし、我が社もいろいろ対策をしています。

 

――具体的には、どんな対策をされているのでしょう。

吉成 日光を浴びないとうつ病にかかるリスクが高まるということなので、サクセスでは徹夜は原則禁止です。とはいえ朝に弱い社員もいるので、フレックスタイム制や、使い勝手の良い午前半休、午後半休という制度を導入しています。体調が良くない時やプライベートで少しだけ職場を離れたい、といったケースに柔軟な対応ができる勤務制度なので、社員には好評だと思います。

 

――いざというときに遠慮なく休暇が取れるのなら安心ですね。

吉成 それでもやはり、社員がうつ病にかかったり、うつ傾向が出ることもあるんですよ。サクセスでは月に一度、うつ病治療の得意な整体師の先生を長野県からお呼びしています。社員だけでなく取引先の人までが噂を聞いて治療を受けに来ています。

 

――うつ病の専門家というと精神科医やカウンセラーというイメージがあったので、整体でうつ病が改善するとは驚きました。

吉成 伝手をたどってお願いしたんです。整体だけでなくカウンセリングもしていただけるので、助かっています。
ほかにも社員の健康のために管理栄養士による健康指導もお願いしています。肥満も鬱同様大きな問題ですから。

 

お弁当作戦で劇的に改善

――ゲームクリエイターは一日中パソコンに向かいっぱなしになることも多そうですし、会社として取り組めることは色々ありそうですね。

吉成 仕事柄どうしても運動不足になりがちですから、社員にはスポーツを奨励しています。でも、運動どころか普段の食生活にも無頓着な社員も多いんですよ。健康診断で数値の悪い社員がけっこういたから、せめて昼食くらいはちゃんとしたものを食べさせようと思って弁当注文のシステムも導入しました。

 

――ここは五反田駅にも近いですし、昼食を食べる場所ならたくさんあるんじゃないですか?

吉成 それが、適当に済ませてしまう者も多いんです。

 

――たしかに、余裕がないときは安くて早いファストフードを選んでしまいがちですね。

吉成 それで、弁当屋さんと契約して、弁当を会社で一括注文するようにしたんですよ。その日に弁当を買いたい社員は、3種類の弁当から食べたい物を選んで申し込むというシステムです。
1食200円くらいで買えるように会社から補助金を出しているので利用者も多く、おかげで健康診断の数値もずいぶんと改善しました。

 

――昼食を変えるだけでも効果が上がるものなのですね。

吉成 年に1度の健康診断の結果が証明しています。色々な数値が確実に改善しています。

 

――ここまで手厚く面倒を見てくれると、自己管理ができなくても健康になれそうな気がします(笑)。

吉成 目指すところは、クリエイターにとってのユートピアです。

弁当

不健康な社員を救った「お弁当」

吉成社長のつぶやき(26)

趣味の柔道で週3回、合気で週1回の道場通いを欠かさない吉成社長は、運動不足とは縁がない。

『正確には柔道3回、合気1回です。柔道は無酸素運動なので、健康のためのスポーツとは言えないけど、ストレス発散効果は抜群に高いです。合気は有酸素運動なので健康にはいい』

サクセスの企業風土(4)

良い企画は、会議の場では出てこない

――グループウェアを使って、ほかに成果が上がっているものはありますか?

吉成 独自に作った『企画募集』用のソフトを使って、いつでも企画を提案できるようにしたところ、提出される企画書の数がずいぶん増えました。サイボウズ上に上がった企画書は全社員が閲覧して「イイネ」ボタンを押せるようになっていますので、企画提案者はすぐに反応を見ることができます。

 

――企画会議の場でプレゼンする前にある程度の反応を知ることができるとなれば、企画のブラッシュアップにも役立ちますね。

吉成 どの業種でもそうかもしれませんが、良い企画っていうのは普通の会議の場ではなかなか出ないものなんです。だからこうした専用ソフトを活用するのもひとつの手だし、サクセスではほかにも、月1回会議室でビールを飲みながらブレスト会議みたいなことをやってます。これは以前からずっと続けていることで、『企画募集』用ソフトでの企画提案とは関係なく、色々な企画を自由に発言してもらってます。

 

――お酒を飲みながらとは、なんと素晴らしい会議(笑)!

吉成 ほどよくリラックスすれば、良い意見が交わされますよ。細かいルールは決めていないので、資料を持ち込んでプレゼンする社員もいれば、飲み食いを楽しんでいるだけの社員もいるといった気軽な感じです。メンバーは固定ではありませんが、毎回10人くらい参加してますね。

ほかにもグループごとに持ち回りで、毎月1回の「社長との飲み会」を開催しています。

 

――最新のシステムを導入して効率化を図るだけでなく、気軽に触れ合えるコミュニケーションの場を設けて、そこから生まれる発想も大切にしているのですね。

吉成 『企画募集』用ソフトの利用で企画や提案が出しやすくなっても、出さない社員はぜんぜん出しませんからね。どうやったら社員一人ひとりが能力を発揮しやすい組織を作れるか、あの手この手で試しています。

 

社員のためにできること

――お話を伺っていると、業務改善の件にしても企画提案の件にしても、とにかくスピード感を感じます。

吉成 うちのモットーは「割り込み処理」。急な案件が発生しても「この仕事が終わったら」とか「ひと段落したら」なんて言って後回しにしていたら忘れちゃいますからね。

だから、うちの社員は何かあるたびに気軽に社長室を訪れるんですよ。僕が何か打ち合わせをしていても、たとえばハンコを押すくらいなら直ぐ処理できますから、わざわざ打合せが終わるのを待つ必要なんかありません。「巧遅を求めるな、拙速を求めよ」がサクセスのモットーです。

 

――吉成社長が社員に求めることが「行動指針」に記されていますが、自らも実践されているんですね。

吉成 現在の「行動指針」は7つの項目から成っていますが、最初はもっと多かったんですよ。1つ前のバージョンは12項目あったんです。でもあんまり多くてなかなか守ってもらえないから、どんどん削っていったんです(笑)。

割り込み処理は「巧遅を求めるな、拙速を求めよ」という指針に、業務改善は「問題点の指摘は不要。問題解決法を提案せよ」、『Who’s who?』は「人の名前を覚えよ」につながっています。

 

――これだけしっかり社内のシステムに組み込めば、「行動指針」は単なる標語として終わることなく、きちんと機能しますね。

吉成 「行動指針」はサクセスの社員に「こうあってほしい」という理想ですが、そのために会社としてサポートすべきことはいろいろあります。たくさん本を読んで知識を広げてほしいから補助金を出したり、プライベートも充実させてほしいから勤務時間や休暇の制度を整えたり、クラブ活動を奨励したりしています。

 

――社員のやる気を出すために、福利厚生に力を入れているのですね。

吉成 それだけではなく、社員には心身ともに健康でいてほしいからです。

じつは昔から、ゲーム業界に従事する人たちはうつ病にかかる割合が高いんですよ。ゲーム会社のなかには、午後から業務をスタートして夜通し働くようなスタイルのところもまだまだ多いんです。でも、そんな働き方を続けていては、そのうち心身のバランスを崩してしまうのは当たり前ですよね。

 

行動指針

ゲーム業界で成功するための必要条件。

 

吉成社長のつぶやき(25)

ビールの出るブレスト会議。ということは、吉成社長はビール党?

『運動前に準備体操をして血液の循環を良くするのと同じで、お酒も血液の循環を良くしてブレストの効果を高める効果があるんです。そうすると、1ドリンク1アイデアです』

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